童話集
のあくん
小さな世界のおくりもの_約1900文字
ある、小さな世界の、小さな森に、冬がやってきました。
動物たちは、冬の間、お昼寝してしまいます。
森の木々たちも、冬の間、お昼寝してしまいます。
ですから、この小さな森は冬の間、とても静かなのです。
____
そんな森に、ゆらり、ゆらりと雪が降ってきました。
ですがその雪、少し元気がないようです。
いったいどうしたのでしょうか。
____
「やっぱり、今年も静かだなぁ…」
雪は寂しそうに言いました。
「どうして、こんなに誰もいないんだろう。ぼくって、もしかして、嫌われているのかな…。だからみんな、ぼくが降りてくる時に隠れるのかな…」
____
雪は、目が見えません。
なので、自分の姿を見ることはできません。
真っ暗の中、とても長い間空から落ちてくる。それは、なんと恐ろしいことでしょう。
やっとの思いで地上についても、誰かに頑張ったねと褒められる事もなく、ただ、春になったら溶けていくだけです。
だから、雪は冬が嫌いでした。
____
(今年も、また、誰にも会えずに溶けていくのかな…)
そう思っていたとき、森の奥から誰かがやってくる音がしました。
「そこに、誰かいるの?」
雪は聞きました。
すると、
____
「わあ! びっくりしたー。雪もお話するんだねー」
と、元気の良い声が聞こえてきます。
「…えっと、君は、だれ?」
「わたし? わたしは雪うさぎだよ!」
「雪うさぎさん…?」
「そう! 雪うさぎ! 君は、雪…ゆきくんでいいかな?」
「う、うん!」
雪は、生まれて初めて付けられた名前に大喜びしました。
____
「ところで、雪うさぎさん。なんで僕は嫌われているの…?」
ずっと疑問に思っていたことです。
「え? ゆきくん、嫌われているの?」
そんな雪うさぎさんの答えに、雪はびっくりしました。
____
「だって、ぼくが降ってくると、動物たちはみんな家にこもっちゃうじゃないか」
雪は聞きます。
「あぁ、それはね、冬は寒いから、みんな眠ってあたたかい春が来るのを待っているんだよ」
雪うさぎさんは答えます。
____
「木々だって…」
雪はまた、聞きます。
「木々も、葉っぱが落ちちゃって寒いから、あたたかい春が来るのを、じっと待っているんだよ」
雪うさぎさんもまた、答えます。
「…そうなの?」
「うん!」
雪は喜びました。
____
「それじゃあ、ぼくはどんな形をしているの?」
雪は、少しわくわくしながら聞きます。
「えっとね、尖ってるところがなくて、ふわふわしてるよ」
雪うさぎさんは、変わらず元気のいい声で答えます。
「色は? どんな感じ?」
雪はまた、聞きます。
「真っ白ですごくキレイ!」
雪うさぎさんはびっくりするほど大きな声で答えます。
「キレイ…? ぼくが…?」
「うん! きれいだよ!」
雪は喜びました。
____
「そうなんだ…ぼく、キレイなんだ…」
「うん!」
「でも、残念だな…」
雪は、悲しそうに言います。
「どうして?」
雪うさぎさんが聞きます。
「ぼくには、目が無いから、ぼくの姿が見れないんだ」
「そうなの? …そんなにキレイなのに…」
雪うさぎさんは悩みました。
____
「あ! そうだ!」
そう言って、雪うさぎさんは近くに落ちていた緑の葉っぱと赤い木の実を取ってきて、何やら雪を集めています。
「ちょっとまっててね!」
まず、雪をおわんのように固めます。
そして、その雪の上の方に草を2枚刺します。
最後に、赤い木の実を2つ、右と左で位置が同じになるように置きました。
____
「よし! いいよー! 目を開けてみて!」
雪は、言われた通りに目を開けてみると、そこにはすごくキレイで、真っ白な世界。
それを作っている小さくてキレイな雪たち。
「どう? どう?」
「キレイ…」
「そうでしょ!」
「うん…」
雪はあまりにも綺麗な初めて見る世界にとても驚きました。
____
「雪って、綺麗なものだったんだね」
「うん」
「雪うさぎさんも、雪と同じ色をしているんだね」
「うん! だから、雪うさぎって名前なんだよ!」
元気いっぱいに答えました。
____
「そっか、世界って、こんなに綺麗だったんだ」
「冬、好きになった?」
「うん! もちろん!」
____
この日から、冬が来るのが待ち遠しくなった。
雪うさぎさんはぼくに、冬の世界をプレゼントしてくれたんだ。
だから、冬は雪うさぎさんからのおくりもの。
____
「ところで、雪うさぎさん」
「なーに?」
「僕のからだ、どうなっているの?」
「ああ、えーっとね…私と同じだよ! その形は雪うさぎって言うんだって」
「本当に同じなんだね」
「雪だるまは私じゃ作れないから、おそろいにしたの!」
「おそろい。嬉しいな」
冬に耳を澄ますと、こんな会話が聞こえてくるかも知れません。
童話集 のあくん @N_Kaminasi
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