第四十二話 最終話


「英雄オリバとその仲間たちよ。おぬしたちは世界を救った。本当にありがとう!! この功績はプロタン王国に永遠に語り継がれるであろう! さあ、うたげの始まりじゃ! 乾杯!!」


 国王アレクサンドロス四世がワインを高々と掲げた。


「乾杯!!」


 みんなも一斉に続く。


 大魔王ケロンデウスを倒した俺たちは王城に招待された。

 アレクサンドロス四世から勲章くんしょうや金貨などいろんなものを式典で授かった。


 長くて疲れる式典もやっと終わり、みんなでテーブルを囲って宴が始まった。


「これ! それはわらわのワインじゃ! 勝手に飲むでない。そなたには栄養不足な部位があるのじゃからミルクでも飲んでおれ!」


「言ったわねっ! このチチメロンおばけ! そのうち牛と間違えられて、農場で一生をおくることになるわよ!」


「そんなわけなかろうっ!!」


「あっ! 牛が喋った! 最近の牛は言葉も喋れるなんて賢いわねー」


 ルナとエレナは相変わらず喧嘩している。


「ちょっ、ルナ様! 氷の国の女王様にむかってさすがに失礼ですよ!」


 リックが慌ててルナを止めに入る。


 俺はかあさんのほうを向く。


 俺の母親ということで王城に招待されたのだ。

 かあさんは何も言わず誇らしげにこっちを見つめている。


 俺が大魔王を倒して帰宅したとき、かあさんは俺を抱きしめて泣きだした。

 『無事でよかった……ありがとう……』ってただそれだけ言った。

 大魔王を倒したかどうかなんか聞かなかった。


 俺の筋トレの師匠コールマンさんは鶏の胸肉をせっせと食べている。

 高タンパク、低脂質、低炭水化物の優れものだ。

 テーブルに豪華な食事が並んでいるのに鶏の胸肉を選ぶところがコールマンさんらしい。


「すっごいご馳走ちそう! それにこの部屋も凄い装飾だねっ!!」


 ノバは目を輝かせながら、周りをキョロキョロしている。


「こら、ノバ! あんまりキョロキョロするでない! 恥ずかしい」


 ボサが叱りつける。


 ふたりとも元気そうで良かった。


 俺はヤンとアレックスに顔を向ける。


 ふたりは俺の友達ってことで特別に招待してもらえた。

 ふたりとも緊張した面持ちで目の前の料理を食べている。


 俺はヤンの髪をジッと見つめる。


 もうパーマじゃない。

 ストレートヘアーに戻っている。

 サラサラと黒く輝くヤンの髪は見事にキューティクルを取り戻していた。


 俺はほっとする。


 アレクサンドロス四世の隣には俺の職業を『ボディビルダー』と宣言した神官も座っている。

 絶対に俺と目を合わせようとしない。

 神官があの時に呟いた『夏までに痩せようと思っていたからじゃろうか……』って言葉を俺は決して忘れない。


 でも……この神官がミスしなかったら大魔王を倒せなかったわけだ。

 それに……ここにいるみんなとも出会えなかった。

 そう考えると感謝の気持ちが湧いてくる。


 窓から見える王城の庭では子どもたちが走り回っている。

 空は晴れ渡り、色とりどりの花が咲き乱れている。


 みんな楽しそうだ。

 平和が訪れたんだ。

 長い冬が終わり、待ちわびた春がやって来たみたいにみんなはしゃいでいる。



 みんなを見てるとなんだか暖かい気持ちになって微笑んでしまう。



 みんなに会えてよかった――


 筋トレしてよかった――



 俺はそんなことを思いながらバームクーヘンを頬張る。



 幸せの味を噛みしめた。





 ―――― おしまい ――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【朗報】体型に自信のなかったこの俺が、筋トレしたらチート級の筋肉になった! ちょっと魔王倒してくる!【ラノベ】 ネコ飼いたい丸 @neko_kaitai_maru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ