第54話

 村民達への説明をウサトに任せ、一人村を囲う柵に沿って外周を歩いていたクロウは柵の側でいくつものゴブリンの足跡を見つけていた。これはゴブリンがこの村の偵察に来ていた事を示している。ゴブリンがこの村を襲うのはコレでほぼ間違いない。ボロボロの木の柵とゴブリンの足跡を眺めながら、クロウは盛大な溜息を吐き出す。ボロボロの木の柵こんな物では足止めにすらならないだろう。


「クロウ君……どうか、したんですかい?」


 村民達への説明が終わったのか、ウサトが姿を見せるとクロウはガリガリと頭を掻いた。


「いんや、なんでもない。それより街への伝令役はもう出発したのか?」

「へい。今は残った村民総出で準備にとりかかってるところでさぁ!」

「そうか……」


 ウサトの指示に従い篝火や罠の準備をする為に忙しなく動き回る村人達の様子を眺めながら、歩を進めるクロウとウサト。そんな二人に気がついたのか、村の広場で村民達を手伝っていた少女が大きく手を振っているのが見えた。


「カチュア、足大丈夫なのか?」

「うん! ウルルさんのおかげでだいぶマシになったよ!」


 マシになったと言ってはいるが、彼女の手には歩行を補助する為の杖が握られていた。まだ満足に歩く事は出来ないのだろう。こんな状態のカチュアを戦場に引っ張り出すべきかどうか逡巡するクロウ。そんな彼の迷いを感じ取ったカチュアは握っていた杖で軽くクロウの脛を叩くとニンマリとした笑みを浮かべる。


「クロウが何て言おうと、ボクは隠れる気はないからね」

「……この頑固者が」

「だから、クロウには言われたくないってば」


 諦めた様に頭をガリガリと掻くクロウの脛をまたもベチベチと叩きながらカチュアは笑顔でそう返した。


「手当ての途中で逃げ出した悪い子、見ーつけた」


 聞こえてきた声にビクリと肩を跳ね上げ、咄嗟にクロウの背に隠れようとしていたカチュアの肩を掴むために伸びてきた細い腕。その腕はニッコリと笑顔を浮かべながらもまるで肉食獣のような雰囲気を醸し出すウルルのものだった。そんな彼女に掴まれプルプルと震えるカチュア。


「さあ、手当ての続きをしましょうねー」

「いーやーだー!」


 ウルルに引き摺られながらばたばたともがくカチュア。怪我の手当てをそこまで嫌がる必要があるのだろうかと首を傾げるクロウにウサトがそっと耳打ちする。


「……ウルルのクスリ、匂いが凄いんでさぁ」

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MOON CHILD @coron1207

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