自惚れピエロは夢を見たい

 今日も何もしないで一日が終わった。無駄な時間を過ごした、と寝る前に思う。けど何をしようとも自分には何の取り柄もない。特技もなければ趣味もない。あったとしても長続きしないし無駄に上手く上達するわけでもないし、かといって特段下手というわけでもなく。ある程度のことはできてしまうし、熱がある時はそれは必死に頑張るものの、冷めてしまえば見向きもしない。積み上がっていくそれらに、愛着がなくなっていく。けど捨てるのがもったいないという、執着が積み重なる。今はなにもする気が起きない。だから無駄に時間だけが過ぎるのを、ただ考えずに流されるまま生きている。


 自分は芸能人でもなけりゃ優れたクリエイターとかでもない。その他大勢、一般人、有象無象。そんな枠の中に入る部類の人間だ。お金持ちではないが貧乏でもなく、そこそこの家庭の人間。何もかも至って平凡。普通という言葉がお似合いなまま、かれこれ何十年も生きている。


 友達はいる。けど時々友達間の会話に入れない時もある。仲間ぼっちなひとりぼっち。でもそれにツマラナイと言えば即座に軋轢が生まれてしまい、空気が悪くなってしまう。わかってる。だからそんな時になったら何も言わないで身を引く。極力見ないように心がける。そんな自分なんて知らない友達は、友達同士で楽しく笑い合う。いいな、と思う反面そう思えば思うほど、自分って本当に、この人たちにとって必要な存在なのだろうかと考える。


 いやそんなことない、それはさすがに考えすぎだろう。頭を振って目を閉じる。


 そんな平均しか持ち合わせない自分でも、何か人に負けない何かがあるのではないか。あれこれ手を出してみるものの。SNSに載せてみるも。誰からの反応もなく、乾いた笑いだけが木霊する。でもいいんだ、別にいい。わかってくれる人さえいれば、こんな自分でも認めてくれる人さえいれば、それで──。


「自分に特別な才能とかあるとか思っちゃってるの?」

「自分だって誰かから認めてもらいたい?」

「何言ってるんだよ?」


 くすくすくすと笑う声。卑しい声が脳内で反響する。


「特別な才能なんてどこにもない」

「特別と思っている人は、裏で必死に努力しているんだ」

「お前はその努力を中途半端に放棄したハンパモノじゃないか」

「そんなニンゲンに? 誰が? 認めてくれるって?」

「自意識過剰も大概にしろよばーか」


 耳障りな不協和音。耳を塞いでもどこまでも響く批判の言葉。誰がそんなことを自分に言っているのだろう、誰がそんな風に自分を馬鹿にしているのだろう。


 わからない。

 わかりたくない。

 知りたくない。

 知っている。


 その声はとても、よく聞き覚えのある声だったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

物語未満の物語 黒乃 @2kurono5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ