鶏と竜(仮題)

滝沢諦

第1話 鶏と竜

「努力は才能を凌駕するだろうか?」

 薪が爆ぜ、辺りが一層暗く感じる。

 シチューをかき混ぜていた彼の手が止まり、ゆっくりとこちらに顔を向ける。薪に照らされた横顔を、物憂げに頬笑ませている。

「そうだな、、、少なくともわたしは、そういった人間を何人か知っているよ」

 器にシチューをよそうと、そう言ってから私によこした。ウサギの干し肉が何切れか入っていた。彼自身が肉を食べるのは、もう何年も見ていない。

「鶏は、竜の卵を産むだろうか?」

 重ねて問う。

 シチューを口にする気にもならず、薪と彼の頬笑みを等分に眺めやりながら、その問いと、その応えを、何度繰り返してきたのか自覚しながらも、問わずには居れなかった。

「、、、竜は、生まれながらにして竜だ。鶏が竜の卵を生むこともあるだろうが、鶏が竜になることはなかったよ。わたしの知る限りにおいては」

 彼はいつも、誠実だった。何度となく繰り返された、問いと応え。変わらない夢と、変わらない現実。彼の物憂げな頬笑みが、いっそう影を濃くする。我知らず涙が溢れ、シチューに滴る。

「さぁ、早くお食べ」

 そう言って、匙でシチューを掬う。

 重苦しい沈黙を埋めようとするかのように、薪が爆ぜる音が夜の森に響く。



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鶏と竜(仮題) 滝沢諦 @nekolife44

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