第4話 夢見る少女?
誰もいない家にたどり着いた。これはいつもと変わらず少し残念。私が男の子になってまだ半日。トイレとお風呂、あんまし行きたくないなぁ。
自分が男の子になってるということに実感を覚える。それでも慣れるしかない。
布団に入る準備が出来た。なんだか全く眠くない。そういえば保健室で起きた時、向こうの世界で最後に見た時計より七時間くらい進んでいたような… まあいっか、無理にでも寝よう。
「おやすみ。」
誰もいないがつい言ってしまう。
そして眠りに落ちて行った。
あれ? 教室が見える。中には女子高生の「ぼく」と騒がしいクラスメイト。その女子高生はイケメン男子や近くにいる元気な女子高生に話しかける。
なんて言ったのか分からない。だけど、イケメン男子は困った顔をし、元気な女子高生は無視をしている。それでも、女子高生の「ぼく」は諦めず、話しかけている。しかし、ついに目に涙を浮かべ教室を出て行った…
私は目を覚ました。何故だかわからないけど泣きながら。夢でも見たのかな? 悲しみで胸がいっぱいの中、今日も学校に行く。
「おっはー!飛鳥!」
正門付近で茜さんに声を掛けられる。いつも誰にも言えない、おはようという言葉。久しぶりに言えるんだ。
「うん! おはよう!」
これだけでもなんだか嬉しい。朝、泣いて起きたことなんて忘れていた。
今日もまた、楽しい一日が終わった。そしてまた、地獄のお風呂。なんでだろ。慣れない! 昨日のカフェの帰りにも思ったことだけど、もともとこの世界にいた「ぼく」が気になる。自分だけ楽しむわけにはいかない。分かっているけど、楽しかったと感じてしまう。
「もー!どうしたらいいのよー!」
そんな文句を言って布団に入ると、想いが通じたのか夢を見る。
女子高生姿の「ぼく」は家にいた。外はまだ明るいのに、ベッドに横たわっている。泣いているのか。けれども、途端に立ち上がり紙に何か書き始めた。
「今まで頑張ったね。お幸せに!」
涙で濡れた大きな紙には、歪んだ字でこう書いてあった。本当は戻りたいはずなのに。泣きながらも笑顔を向けてきた。夢が終わるまでずぅーと。
またか。涙をこぼしながら目を覚ます。今度はちゃんと覚えてる。やっぱり「ぼく」は辛いんだろう。仲良くしてた人からも無視され、笑われる。それで辛くないはずがない。このままじゃダメだ。自分より、人の幸せを願う優しい心の持ち主を、誰にも優しく出来ない孤独な人間にしてしまうのは、人間失格だと私は思う。あんな目に遭うのは私だけでいいんだ。
それにしても、「ぼく」はどうして私が夢で見ていると分かったのだろうか。「ぼく」もこちらの世界が見えているのだろうか。それならやっぱり、向こうの世界より時間がちょっと進んでると言えるだろう。私が眠ってる頃には向こうは夕方くらいかな。だからなんだって感じだけど… とりあえず何か「ぼく」に伝えたい。「幸せになって」と言ってくれてる以上謝るわけにはいかないし… そうだ!
紙に、ある質問を書いてみた。伝わるといいな。そしてもうひとつ。
「お互い、元の世界に戻れるように頑張ろう!」
大きな文字で書いた。これが叶えば「ぼく」を救える。それでも、戻る前までにたくさんの思い出を作ろうと思う。そして、今は向こうの世界でもいろいろ人と仲良くなれるように人間関係の築き方を学ぶんだ。
私はそう決意して、ドアに手をかける。「私」と「ぼく」お互いに幸せに慣れることを夢見て、今日も学校へと歩き始める。
「飛鳥〜。おはよぅ。」
今日は登校中に葵に会う。もう田島さんって呼ぶのはやめよう。
「おー。おはよう。」
「あれ?元気無い?」
え? ちゃんと決意を固めたはずなのに、元気無く見えるのかな?
「そうかな? 元気だよ?」
「ううん。絶対いつもとは違うよ。何かあったなら相談にのるよ。」
葵は優しいなぁ。私が本当に男の子だったら好きになってるよ。けど甘えることは出来ない。今の成山飛鳥が前と違うということを知られたら、私が文句を言われそうで怖い。
「ありがとう! でもほんとになんでも無いから!」
「そっか。でもいつでも頼ってね。」
今日は朝から飛鳥の優しさに触れられた。私も人に優しくできる人になりたい。
この青春は偽物か 諦めんな!馬鹿野郎! 心ヶ崎航 @kabayaki2003
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