第3話 私の初カフェ

 快く教室に迎えられ、私は内心戸惑っていた。今までは教室の隅で一人ぼっち。それが今はそんな面影が全く無い。この世界の私はフツーの高校生ができてるんだ!こんなのは別に凄いことでもないだろう。それでも私には、当たり前じゃない特別な事に感じられた。


 「おい飛鳥。喧嘩、、、巻き込んじゃって悪かったな。」

良い体格をしている坊主頭の男子生徒にそう言われた。

いや、よく仲裁になんて入る気になったなぁ。どんな人だか分からないこの世界の自分に感心してしまう。この自分のことをぼくと呼んでもいいだろうか?


 「全然大丈夫!殴られもしてないみたいだし。」

「当たり前だろ。誰もお前を殴ろうなんてしねーよ。」

あはは。この世界のぼくはそんなにいいやつだったのか。ほんとに感服する。


 キーンコーンカーンコーン


 午後の授業が始まっては終わる。当たり前のことだが、そんな授業でさえも気持ちが浮ついていた。そして放課後…


 「飛鳥! 葵! 茜! 久しぶりにカフェでも行こうぜ!」

こんな日が来るとは!! 私、カフェなんか行ったことない。

だけどめちゃくちゃ楽しみかも。

「そうしよう。茜が忙しくてなかなか行けてなかったし。」

聞き惚れるよー。田島さんの声、ほんとにやさしい。けど二人の言う茜って人に自然と恐怖を感じてしまう。

「おけおけー! 今日は全然ヨユーで時間あるから! 光軌君! 一緒いこ!」

「おう。みんなでな。」

光軌君の手慣れた返事。えっとぉ、茜さん、向こうの世界では光軌君のこと春本君って呼んでなかったっけ? 全然人間関係が違ってちょっと戸惑うけど、出来るだけポジティブに!せっかくの機会なんだから。茜さんの苦手意識が強くならないように頑張ろう!


 こうして私たちは駅前の喫茶店に行くことになった。


 茜さんがどうしてもと言うので、私と田島さんが壁側に、光軌君と茜さんが通路側に座った。喫茶店に来るだけでこんなにもワクワクするんだ。よく聞く青春っていうものはこういうものなのか。なんかいいな。

「俺、ちょっとトイレ行って来るわ!」

「私もー!」

光軌君と茜さんが席を立った。田島さんと二人きりかぁ。いつもボーッとしてそうな田島さんだけど、ほんっとに可愛い。だけど向こうの次元では、田島さんは男の子だった。あんまし触れてなかったけどこの機に聞いてみることにした。

「葵? 葵ってさ最近まで男の子だったとかいうことない?」

核心をつきすぎたかな?

「えー?飛鳥君ちょっと失礼だよ?私はずぅーと女の子なんだけどな〜。

女心ってのを理解しないとモテないよ〜〜。」

そうして、頭をポンっポンと叩かれる。


 おちょくられてしまった。もしかしたら田島さんも私と一緒であの世界から来たでは? と思ったんだけど。


 「おい!!あすかぁ?どうして頭をポンポンされてんだよ?何話してたんだ?」

しまった、光軌君に見られてた。

光軌君、田島さんのこと好きだってバレバレだし…

けどここは正直に。

「ちょっと葵にしかできない相談があってね。」

「親友の俺にも出来ない相談なのか? ちょっと悲しいな。」

光軌君とぼくは親友だったのか。親友って言葉はなんだか心地いい。そんな事を言われたら言いたくなるけど今は我慢しないと。まだ私自身の気持ちが固まってないから、せめて状況を理解してから話そう。

「光軌、ごめん。葵にも全然内容は言えてないんだ。ただ、少しだけ悩みを抱えてしまってるんだ。いろいろ考えてからみんなに話すよ。」


 「わかったぜ。」

それから光軌君は私に近づき、田島さんに聞こえないように

「俺は葵のことが好きだ。お前にはぜってー負けねーから!」

何か勘違いされてるような…それとも私は、本当に田島さんのことが好きなのかな。ちょっと前まで男の子だったから、女の子を好きになるという想像ができない。今まで、男の子すら好きになったことが無いからなおさらだ。


 「おーい!早く注文しよー!」

今までトイレに行ってた茜さんが何言ってんのよとは思いつつ、初めてのカフェを楽しみたい私はワクワクしながらみんなの後に続いた。


 私たちはここで2時間ほど世間話をして楽しんだ。飲み物とパンケーキひとつで2時間も楽しめるなんて高校生バンザイだ。それから私たちは別々の帰路につく。


 「じゃあな!」

「光軌君たちじゃあね!」

光軌君と茜さんの元気な挨拶と、

「うん。またあした〜。」

田島さんのやさしい挨拶。どれも私に元気をくれる。そして私も…

「みんなー!またね〜。」

なんだか気が抜ける感じだけど、自分もみんなと一緒になれて嬉しかった。


 私は細い道を歩きながら考える。もう一人の私、ぼくはどうしているのだろうか。私のいた場所に行ってしまったのだろうか。誰も頼れず、誰にも頼られない、必要とされない場所。そんなとこで上手くやれてるはずがないだろう。私は楽しみ、ぼくは嘆く。それを考えてしまうと胸が苦しくなる。


 ごめんね・・・。


 私はどうすればいいのか。その答えはまだ、分からない。

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