役に立たない完璧なタイムマシン

滝コウイチ

ループ

「とうとうタイムリープマシンを完成させたぜ!」


子供の頃から数学・物理学の天才少年と言われ、テレビのバラエティ番組にも多数出演していた内藤ないとう一哉かずやは、弱冠34歳にて完璧なタイムリープマシンを完成させた。


タイムリープマシンとは、有名な猫型ロボットのタイムマシンとは違い、体ごとタイムスリップするのではなく、意識だけタイムスリップすることができる機械だ。


一哉は今までの人生全てをタイムリープマシンの開発に注ぎ込んでいた。

タイムリープマシンさえ完成させれば、人生の全てが逆転すると信じていたからだ。


お金が欲しければ、結果の出ている公営ギャンブルやナンバーズといった宝くじを数日前に戻って購入すればいい。

株やFXだってある。


彼女が欲しければ、例えば気になる女の子から好きな食べ物や色、趣味なんかを聞いて数分前に戻り、それを語ってあげれば驚いてくれるだろう。


名誉が欲しければ、iPhoneのプレゼンが行われる数年前に戻り、ライバル企業に企画を売り込んでみたらどうだろうか?


とにかくタイムリープマシンは人生の逆転を実現させる無限の可能性が存在している。

そう、内藤一哉は思っていた。


「早速、テストしてみよう」


一哉はとりあえず10分前に戻ってみることにした。

その前に、まだ何も書かれていない新品のノートに落書きをした。

10分前に戻れば、この落書きは消えているだろう。

中古のノートが新品になる。

些細な事だけど、それがタイムリープだ。


いよいよ初テストだ。

心臓が高鳴る。

血液が全身を駆け巡っているのを感じるほどだ。


時間を10分前にセットする。

そして実行ボタンを押した。


>>>>>


目の前に新品のノートが置いてあった。

中には何も書かれていなかった。

成功した!

タイムリープマシンは完璧に完成していた!


ただ、このタイムリープマシンは完璧すぎた。

10分前にタイムスリップする際に、一哉の記憶も10分前にタイムスリップしてしまった!

つまり、この10分間の出来事を一哉は覚えていなかった。


「早速、テストしてみよう」


一哉はとりあえず10分前に戻ってみることにした。

その前に、まだ何も書かれていない新品のノートに落書きをした。


残念ながら、内藤一哉の人生は10分間のループを永遠に繰り返す人生となってしまった。

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役に立たない完璧なタイムマシン 滝コウイチ @takifield

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