アンハッピークリスマス

水木レナ

近所で猫が鳴いている(詩です)

 今日は疲れたよ

 スコちゃんの写真をさんざん撮って

 これは年賀状に印刷するといいなんて思ったり

 だんだんいい写真が撮れるようになってきて

 有頂天になっていた


 だけど、近所で猫が鳴くんだ

 帰る家のない猫が

 隣の家の窓辺でエサをねだっている

 うちに来たこともある

 真っ白な猫だった


 鳴けば人間がかまってくれるなんて思ってるのは

 飼われてたことのある証拠だ

 きれいなきれいな猫なんだ

 この不幸せはだれかのせいなんだろうか

 私がエサをやらないせいなのだろうか


 駐車場のすみに発泡スチロールの板をおいて

 そこに飼い猫のフードをこっそりおいておいたけど

 気づいてはくれなかったみたいだ

 この不幸せはだれのせいなんだろうか

 お隣さんが窓を開けないせいなのだろうか


 世間はハッピークリスマス

 私の家の近くではお腹をすかせた白猫が鳴く

 もうだれの手も届かない

 この不幸はいつまで続くんだろうか

 だれかが手を差し伸べればすむことなんだろうか


 真夏の台風と一緒にやってきた白猫は

 冬の師走までどう過ごすのだろうか

 その命は無事に春までもつのだろうか

 この不幸はだれのものなんだろうか

 私が感傷にふけり、負い目に思っているだけなんだろうか


 だれの上にもメリー・メリークリスマス

 そんな希望溢れるちらしがポストに投げこまれるけれど

 クリスマスのごちそうを安くあげたい母がゆううつそうに見るだけ

 ねえそんなことよりあの真っ白な猫の命はいつまで続くの

 その終わりを予感して震えるのは私だけなの


 おうちにお帰りと言ったでしょう

 近所では野良猫を保護するどころか

 処分に困ってるそうだ

 こんな不幸は終わらせるんだ

 さあ、君のおうちへぜひ帰るんだ


 7月から12月まで同じ調子で生きてきたんだから

 きっとだれかが手を差し伸べてくれていたんだろう

 それをこの先も期待するのは不憫に思う

 心が寂しいだれかの助けは、きっと肝心な時に発揮されない

 面倒を見切れない言い訳をして、知らぬふりをするだろう


 だから、おうちへお帰り

 神様のような白い猫

 良くしてやりたいのはやまやまだけれど

 ときどき見かけるだけの人間は信用しない方がいい

 はやく、はやくおうちにお帰り


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アンハッピークリスマス 水木レナ @rena-rena

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