第2話 最低コンビ誕生



ガキンチョの魔法の法則がなんとなく判明した。


その1

ジジイの杖がないと使えない。

その2

杖が使えるのはジジイとガキンチョだけ。

その3

エッチな事が絡まないと使えない。

その4

効果は約1分持続する

その5

連発できない(賢者タイムに入る為)

その6

1日に使えるのはだいたい3回くらい

(頑張ったら5回くらいいけるかも?)


こんな感じかな。


………


ってこれ、魔法の話だよね?

なんなん?後半の生々しさ。


つか持続時間1分ってどーなん?

早すぎんだろ? ←え、なにが?

頑張ったら5回くらいって…

それって多いのか?少ないのか?

その辺、経験不足でわかんないし、って魔法の話だよね⁉ ねっ⁉



「うーん、まとめたらかえってアタマ痛くなってしまった」

頭を抱えるアタシに、にこにこ笑いながらもたれかかってくるガキンチョ。


「ちょっ、重いから。 コラコラ、腿を撫で回すんじゃないっ」

なんかすっかり懐かれてしまった。

そーいえば、コイツの親はどうしてるんだろう?


「なあ少年、家は近いのかね?」聞いてみた。


「うんとね、近いよーな近くないよーな?」

はい、全然わかりません。


「この辺りはよく来るの?」 ラブホ街だけど。

「オジイちゃんとタマに来るよー?」

やっぱりジジイか。 なんなんだ?エロジジイ?  ラブホ街を散歩コースにすなっつーの


「オジイちゃんって賢者だよね? 少年よりもっと凄い魔法使えたりするの?」


「んー? オジイちゃん、ずっとけんじゃたいむだから使えないよー?」


あーっ、そっちかよっ賢者って‼ 使えねぇーじゃんっ‼ 

職業「遊び人」から進化するけど、また遊び人に逆戻りしてんじゃん⁉





とか考えてたその時、

ホテルからターゲットの車が出てくるのが見えた。

そう、すっかり忘れてたけど今のアタシがすべき事は、浮気の証拠となる映像を撮る事である。

その為に、3時間以上こうして張り込んできたのだ。

咄嗟にカメラを構え、連写でシャッターを切る。 浮気相手の男が運転、依頼人の妻が助手席側に座っているのだか、人目を警戒して、リクライニングを深目にしているようだ。 外からでは頭の先端が少し見えるくらいだった。

これでは決定的な写真は撮れない。


車は細い路地をゆっくり走り去っていく。


「少年っ! 気を付けて帰れっ!」

そう、声を掛け、アタシはダッシュする。 この辺りは一方通行がかなり入り組んでいるから、ターゲットの車が大きな道路に出る前に走って追いつけるだろう。 

自慢じゃないが、アタシは胸はないが足には自信がある。 うるさい、ほっとけっ。

狭い路地を駆け抜け、大通りに出たら丁度客待ちのタクシーが止まっていた。

ターゲットの車は少し先で信号待ち中だった。


「あの前の白い車、追って下さい!」 

タクシーに乗り込みつつ、運転手に叫ぶ。

ああ、まさか自分がこんなベタな台詞を吐く事になろうとは。


おそらく休憩気分だったであろう運転手のおじさんは、そのアタシの言葉に即座に反応した。

「OKっ、任せときな!」 なんかのスイッチが入ったのか、ノリノリで返事されてしまった。


「ううっ、長年ドライバーやってきて、やっとその台詞が聞けるとは…」

あらら、なんか似たよーな事、言っちゃってるよ。 こんなことで感動しないで欲しい。


「あーっ、コレよくあるヤツだよねー」

「うん、刑事モノとかでね、っておいっ! 何でアンタも乗ってんのっ⁉」


いや正直、ドアが閉まる寸前にガキンチョが飛び込んで来たのは、気付いてましたよ? つーか普通、気付かない方がオカシイよね? 

某探偵マンガのあるあるパターンだけど。 ごめんなさい、ベタな小芝居やっちゃう誘惑に勝てませんでした、はい。 下手すりゃ誘拐なんだけどなー、まぁいいか。 いや、良くはないけどっ。


「あの辺、オジイちゃんの庭だから、ボク抜け道くわしいんだー」

はぁ? ラブホ街を庭にすんじゃないよ、どこまでも色ボケしたジジイだな。


が、そのガキンチョの言葉に、

「あれ? その坊や、久里くりのじいさんトコのお孫さんだよね?」

と、ドライバーのおじさんが反応した。


「え? 知ってるんですか、この子?」

知り合いだったらすごく助かるんだけど。


「ああ、さっきアンタらが乗った場所あたりで、よく会うからね。 知ってるって言っても、挨拶する程度だけど」

…マジで散歩コースなんだな、 まったく。


「クリってどんな字、書くんですか?」一応、聞いておく。

「確か、『久しい』の『久』に、『さと』って書いて久里、だったと思うよ」

ふ〜ん、久里、か。

見るとガキンチョは、ちょこんと座って窓の外を眺めてる。 

ご機嫌に鼻歌なんぞ歌ってるから、ドライブ気分なんだろう。

しかし、コイツのジイさんって、一体どんな人物なんだろう?


……


思い描こうとして、即座に止めた。

どう想像しても、背中に亀の甲羅背負って、ハゲ頭にサングラスのあの人しか思い浮かばない。


「運転手さん、後でまたさっきの場所に戻って下さい」

「ああ、いいよ」


よし、ひとまずこれで、仕事に集中できる。



◆◆◆



ターゲットの車は、某高級住宅街に入る少し手前で停車した。

おそらくここで別れるはず。 これが撮影できる最後のチャンスだ。

「運転手さん、なるべく自然に、前に回って下さい」


「オッケー、あっちから見えない場所に停めるんだな?」

さすが、良くわかってらっしゃる。 その言葉通り、ターゲットを追越し、脇の道に曲がって停車してくれた。 


「すいません、ここで待っててもらっていいですか?」

「おう、待ってるから、早く行きな」あっさり了承してくれた。

その口調といい、刑事ドラマの気分に浸っちゃってるんだろう。 面白いオジサンだ。


「よし、行くぞ、少年」

ガキンチョをタクシーの中に残していくのも気が引けたんで、そう言ったんだが、

「すぴ〜」

寝てんのかいっ お昼寝タイムかいっ⁉

こんなトコだけ幼児だな。

揺すると、

「…おねーさん、ここどこ?」と、むにゃむにゃ言いながら起きた。

「ほら、行くよ?」面倒くさいんで、小脇に抱えて車を降りる。


曲がり角にいい具合に立て看板があり、体を隠しながらターゲットを確認出来た。 うん、角度もバッチリ、絶好のロケーションだ。

ガキンチョは側に置いといて、カメラを構える。 ターゲット達はまだ、車の中で話し込んでいた。 その様子は撮影できたものの、不倫の証拠とするにはちょっと弱い気がする。 もっと決定的な何かか欲しい。


そこで、非常に不本意ながら、ガキンチョに頼る事にした。


「ねえ、あの車の中の男の人と女の人、見える?」アタシの目線の高さに持ち上げてやる。

「うん、見えるー」

「あの二人がチューしちゃうよーにできる? なるべく激しめで」

あぁ、幼児に何頼んでんだか。 ちょっと後ろめたい気持ちになるが、バイト料が掛かってる。 この際、都合よく考えてしまおう。


「んー? どんなのー?」

激しいチューとか言われても幼児には理解不能か。 うう、どーやって説明しよ?

「こ、こんな感じで、口と口をね…」

端から見たらひょっとこみたいな顔しながら、口をとんげたり、すぼめたりしながら、必死で説明する。 後から考えたらたぶん死にたくなると思うけど、今は恥ずかしいとか言ってられない。


「なんかわかんないよー。 でぃーぷキスならわかるけどー」

「知ってんのかよっ!! クソガキ!!」

あー目眩がする。 


「やって! 早く!」急かすと、またリュックから魔法のステッキを取り出した。 何度見ても、老人の杖にしか見えないそれを、折れた状態から伸ばしていくクリクリ坊主。

そして、真っ直ぐにした杖を車の二人に向ける。


が、なかなか魔法が発動しそうな気配がない。 本人は

「う〜ん」って唸ってるし。

「どうした、少年?」堪らず聞く。 すると、

「まだダメみたいー」と、力ない返事がかえってきた。


「さっきのスカートめくりから10分以上経ってるよね? 賢者タイムは

過ぎたんじゃないの?」

「うーん、3回目だからかなぁ?」

オイオイオイ、そりゃ、ないだろ⁉ とたんに焦るアタシ。


「あんた若いんだから回復早いでしょ⁉ 3回目でぐらいなによ! がんばりなさいっ!」って、何言ってんだ、アタシ? つーか、うら若き乙女に何言わせてんだよっ⁉ 知らない人が聞いたら、相当ヤバい事、言ってるぞ⁉ ほら、タクシーのオッちゃんが凄い顔で見てるし。


「うん、がんばるー。 ジッチャンのナニかけてー?」

オマエのじーさん無名人だろっ つか、疑問形にすんじゃないよっ

誤解招きそーだろっ!


再び健気に杖を構えるガキンチョ。

が、杖は無情にも真ん中の関節部でカクンと折れた。 下にだらーんと垂れ下がる。


「ちよっとっー! 何、中折れしてんのよーっ⁉ 気合い入れなさいっ!」

あっ、おっちゃんがまたこっちガン見してるし。


「あんまりぷれっしゃーかけないでよー?」

お前は、倦怠期の旦那かっ‼ よし、仕方ないっ 奥の手だ。


「わかったっ。 魔法が出せたら、おねーさんのオッパイ揉んでいいからっ!」 どーだっ、効いたろ? うん?


「ええ⁉ おねーさんのオッパイも…、ナデていいのー?」

あーっ、コイツなんでワザワザ、揉むを撫でるに言い直すんだよ⁉

えーえー、どーせ、アタシのオッパイなんか、撫でるかつまむかの二択しかないですよっ、そーでしょーよっ‼


あーっもうヤケクソだーっ!

「撫で回していいからっ! つまんでもいいからっ!」と叫ぶ。

 だから、そこっ!おっさんっ‼、車の窓から身を乗り出そーとすんじゃないっ!


「ボクがんばるー!」おお、その気になったか! よしっ、イけーっ、少年!


ぐっと力を込めて杖を構えるガキンチョ。 大丈夫、中折れしてない。

ビンビンだぜーっ!


「いくぞー、えいっ‼」


少年の掛け声と共に、車の中の二人が急接近する。

すかさずカメラを構えるアタシ。


そして……二人の唇は重なった♡‼


シャッターを切る。 夢中で切る。 角度も変えて切る。切りまくる……


…って、なげーな?おいっ! いったい、いつまでやってんだよっ!

1分とっくに超えてるぞ? 持続時間1分じゃないの⁉


「1回目より、3回目の方が長持ちするんだってー。 オジイちゃんが言ってたー」

 あーなるほど。 そーゆー事ね?  ふーん。 お陰で、写真だけじゃなく、動画も撮れちやったし。


って、そんなんでいいのかっ⁉



▼▼▼


ひとしきりディープなキスを堪能した二人はやがて、それぞれの家庭へと帰っていった。


よしっ、これにてミッションコンプリート!


アタシは少年に向かってしゃがみ、右手を少し上にあげた。

「?」首を傾げる少年。

「ほら、ハイタッチだよ?」と少年を促す。

すると嬉しそうに手をパチンっと合わせてきた。

そのまま頭をギュッと抱え込んで、髪の毛をワシャワシャとしてやった。

すると


「おねーさん、ちよっといたいよぉ」とか言いつつ、アタシの胸を揉…、

まさぐる少年。 ちょっと声が出そうになったけど、まぁいいか。

約束だもんね。


でも、流石に三分超えたところで、引っ剥がしたけど。


おっと、大事な事を忘れるトコだった。

少年に向かって言う。


「まだ名前言ってなかったよね。 

おねーさんの名前は、宗田 莉珠むねた りず

よろしくね」そう言ってニッコリ笑った。


「むね たりず?」


「こらこら、そこで句切るんじゃない」

少年のほっぺを軽くグリグリしてやった。


「ふわ〜い」

『胸 足りず』は昔から散々言われたしね。


「で、君は?」


「ボク、久里くりくりあ」


くりくりあ?

うわお、なかなかキラキラした名だねぇ。 くりあ……透明かぁ。

本人、かなり不透明感バリバリなんだけどw つか、まんまクリクリ坊主じゃん?


「クリ坊、君のお陰で仕事は上手くいった。 ありがとう」

そういうと、クリ坊は満面の笑顔を見せた。


「えへへー。 ボク、役に立ったでしょー?」


「うん、そうだな」


「ボク、またおねーさんのお手伝いしたいー。 そんでまた、お胸ナデナデしたいー。


あらあら、お手伝いしたい、で止めときゃ、感動もできたろーに、まったくw


面倒だけど、何故か断る気にはならなかった。 仕事が成功して気分がいい、ってのもあったけど。

まあ、またなんかあったら、手伝わせるかな?


「うん、またヨロシクな、相棒」取り敢えず、そう言っとく。


「えへへ。 じゃあ、ボクとおねーさんで、


『クリとリズ』だねー」と、満面の笑顔でのたまうクリクリ坊主。


うわぁお、さいてーのコンビ名だなっ。 


ってか、アタシの名前、リズって良かったーっw


と、思ってたら、クリ坊がニコニコしながらこう言った。



「ボク、くりあだけど、おねーさん、よかったねぇー」





…この〜、誰が上手い事言えとwww
























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魔法少年クリ&リズ シロクマKun @minakuma

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