「信じるからこそ強い奴もいれば、信じないからこそ強い奴もいるのさ」 by水菜
「……お、繋がったかな?おーい、起きてるかー?もとい寝てるかー?」
『……え、だれ?』
「よっ、あんたがミックだろ?……ミックであってるよな?」
『うん、合ってるけど……どこだろうここ』
「あー、よかった。なかなかお前の夢に入り込めなくてさぁ。さすがのあたしもちょっと焦ったぜ」
『ん、夢? そっか、まだ夢の中か……。怖い夢から目覚めたと思ったのに、また変な夢だ……』
「順応が早くて助かるぜ。でもまあ、端的に状況説明だけはしちまおうか。あたしは水菜!紆余曲折あってインタビュアーってのをやってる。そしてここはお前の夢の中!ここまで呑み込めたか?」
『えっと……水菜さん、は何が目的でぼくに会いに? その……もしかして、ルクスさまの使いだったりする?』
「あいにくだが、違う。とりあえず、これはお前が見てる夢だと思ってくれればいいよ。というか、事実そうだから、無理やりにでも納得してくれ」
『分かったよ。……いや、よく分からないけど、いつもの見る悪夢とは違うってことはなんとかつかめた。ぼくにひどいことをしないって、約束してくれる?』
「そっちがおイタをしなければ、こっちも手を上げたりはしねえよ。とりあえず、いくつか質問をするからちょちょいと答えてくれればいい」
『うん、分かりました』
「まずはお前の事を聞かせてくれ。ざっくり訊くけど、お前はどういう人間で何をしている?」
『ぼくはミック。ルクス教の神殿で、
「あたしは無神論者だからよくわかんねえけど、要するに神父の見習いみたいなもんか?」
『神父……は聞いたことないけど、恐らく水菜さんの想像したので合っていると思うよ。でも
「ん?ああいや、あたしはどの宗派にも属しちゃいないし、そもそも興味もない。ただ、人が何かを信じることを否定したりもしない」
『えっ? 何も信じていないなんて、そんな人がいるの? ……あっ、いえ、ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって』
「強いて言うなら、自分とダチくらいは信じてるかな。……まあ、いろいろ言いたいことはあるだろうけど見逃してくれ。どうせ夢の中だしさ。それより、この国の事を聞かせてくれよ。随分とごたついてるみてーだけど?」
『ぼくたちの国では、もう何年も前から、二つの宗教が争いを続けているんだ。敵の宗教の信者に見つかると、殺されちゃう。ぼくたちは身を隠して、自衛して、それでもルクスさまの教えを守ろうと歯を食いしばって耐えて……。というか水菜さんってこの国の人じゃないんだね。そっちの国は暮らしやすい?』
「あー、国としてはそっちよかマシだけど、こっちの世界でもそーゆーのはあったな。第三者から見てると馬鹿馬鹿しいとしか思えねえんだけど、当事者だとそうもいかねえんだろうな」
『馬鹿馬鹿しい、か。外から見るとそうなんだね。こっちは苦しいよ。助けてもらいたくてたまらない』
「そっか。手を差し伸べてやりてえけど、それはあたしの意志では一つでは叶わないんだ、ワリぃな。これからも困難が待ち受けているんだろうけど、それでも自分が信じた道を貫いてくれよな。向こうに戻っても、応援くらいはしてるぜ!」
『そう言ってもらえると勇気が出るよ。ありがとう、頑張るね』
「それはそうと、今夜はもう一人ゲストがいるんだ。知らない顔じゃないだろうし、ついでだから顔だけ合わせて行けよ」
『えっ、もう一人のゲスト?』
「てなわけで、もう一人のゲストを召喚!繋がれ他者の夢!!」
『うわっ、なんだいきなり!』
「えっと、お前がレイヤかな?」
『あっ、君は……』
『ん? 誰かと思ったら
『なんでぼくの夢の中に……』
『知ったことかよ。さっさとおれの夢から出ていけ、夢見が悪くなる』
「えーっと?まあ色々あったみたいだけども、二人はどういう関係よ?」
『……神殿に通う孤児の少女のお兄さん。ルクス教を毛嫌いしているんだ』
『……こいつ、いもしない神ってやつを盲目に信じている、頭の悪い人間。理想ばかりを語って現実を見ようともしない。おれの妹のミナをたぶらかしてやがる』
「よくわかんねえけど、確執があるのは確かみたいだな」
『ルクスさまのことを本当には知らないから、そんなことが言えるんだ。いいかい、君、ルクスさまの根本は愛だ。全てを信じ、全てを許すのが愛。ミナに対してそう接していると、君は自信をもって言えるのかい?』
『これだから箱入りのぼっちゃんは。お前もミナも、ルクス教が正義だと本気で信じていやがる。愛で何かが救えるか? お前は実際に誰かを救えたか? どんな手を使って妹に取り入ったのだか分からんがな、これ以上好きにはさせないし、ミナを渡す気は毛頭ない』
『何を信じるのかは、ミナの自由だ。ぼくたちは彼女に何かを強いたことなんか一度もないよ』
『ミナの自由だと? 笑わせやがる! 信者の命を守れるようになってから、いっちょ前の口を利くことだな!』
「……あー、このままだと埒が明かないし、とりあえずミックには外してもらうかな。……よいしょっと」
『え、ぼくの夢は終わり? またあの悪夢の中に帰るの……? お願いやめて、静かにしているから!』
「そう言われるとやりづらいが、まあこれも仕事だから勘弁してくれ。……そいやさぁーっ!!」
『いやだぁぁ……!』
「ふぅ、これでよし。……さて、待たせたなレイヤ」
『待ってないし。ところであんた誰だ』
「あー、二度も同じ説明すんのめんどくせーな。えっと、あたしはお前の夢の中にお邪魔している妖精です。でもって、ここから出るためには、あたしの質問に対して虚言なく答える必要があります。……これで納得してくれたか?」
『ふうん、妖精ねえ……。ま、この目で見ているし、あいつらの語る架空の神様とやらよりは真実味があるけど。……ふふっ、ヨウセイ、ねえ……』
「ソウダヨ。可愛クテ、チョット手ガ速イダケノ妖精ダヨ?」
『そのちょっと可愛くて手が早い妖精が、おれをさらって何をする気?』
「ちっ、事前に聞かされたとおり現実主義なんだな。話が早くて助かるともいえるけど。……端的に要求を伝えるなら、あたしの質問に素直に答えろ。さもなくば、ここから出る術はないってとこかな」
『質問? それに答えておれに何か得でもあんの? ……まあ、金か食い物くれるんなら答えてやってもいいけど』
「残念ながら、土産の類はねえよ。ああ、ないとは思うけど、実力行使なんて考えない方がいいぜ?あたしは確かに女だが、腕っぷしと格闘技には自信があるからな」
『ふうん、女のくせに、言うじゃないか。試してみるか? ちなみに、おれは孤児街じゃ負け無しだぜ?』
「へぇ、札でなく箔の付いた悪ガキってわけか。そっちの心が折れるまで相手してやりてえとこだけど、あいにくと時間がねえんだ。次に会うことがあったら、関節技の一つくらいは教えてやるよ」
『おれに恩でも売りつけようってか。師匠なんかほしいと思ったことはないね』
「そりゃ残念。まあ、そんな戯れは置いとくとして、こっからが本題。資料によるとお前は今妹と二人暮らしなんだっけか。両親はどうしたんだ?」
『おれたちは、孤児。両親なんていないさ。今頃どっちも墓の下』
「あー、悪かった。ちと無思慮で無神経だったな。許してくれると助かる」
『別に。おれたちみたいなのはごまんといるし。この国で争っている馬鹿で間抜けな信者どもに比べたら、遥かにまし』
「で、今はどうやって生計を立ててるんだ?」
『……。……やっすい賃金で、工場で働いているよ』
「なるほど、それ以外にも別の稼ぎはあるわけだ。それも、大っぴらには言えないような方法の」
『見てたような口を利くんだな。説教でも始めるつもりなら、帰らせてもらうぞ』
「身構えなくてもいいって。各々事情があるのはわかってるし、闇雲に正義だの道徳だのを説いたりはしねえよ。くたばるよりはよほどマシだろうしな」
『ふうん、あんた結構話せるじゃないか。あんたみたいなやつ、割と好きだわ』
「そりゃどうも。ただ、自分も大切にしろよ?お前が力尽きたら、待ってる妹の命運も尽きるってのを忘れんなよな」
『大きなお世話。おれは今までだって妹を守って生きてきたし、これからもそうするつもり。心配される筋合いはないな』
「っと、結局説教っぽくなっちまったか。まあ、そんな経験をしてたんなら、自分と妹以外は信じられないわな」
『大当たり。おれが信じてるのは自分だけ』
「ちなみにあたしも、神様ってやつは信じてない。ただ、信じる事を否定もしない。でも、信じる事と縋ることは違うとも思ってる。そんな感じだな」
『いいや、あんたの考え方はまともだと思うよ。ここらでは珍しい部類だわな』
「またまたどうもっと。ま、あたしの思想なんてどうでもいいわな。いい加減お前も帰りたいだろうし、ここらで終わりにするか」
『ん、分かった。次のときは金か食糧持って来いよ』
「考えといてやるよ。そんなわけで、今回はおしまい!次回を楽しみにしててくれよな!」
↓どうしようもない現実に打ちのめされてなお、己の信じるものを貫くのか。あるいはその逆か。貴方はどちら?
『正義の門』
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