第3話 旅の者たち

「ちょっと待ってよ~。」

 キラの声が陽ざしと一緒にこの山道にまっすぐに、前を歩くトレムとサラに突き刺さった。


「早くいかねーと日が暮れちゃうぞー。」と、トレムが返す。

「急がなきゃ、あいつらに追いつかれちゃうよ。」と、サラもキラを気遣いながらも少し焦っているようだった。


 キラの背中には到底その体つきからは想像できないような長くて鋭い両刃のソードが背負われている。シルバーに輝き刃の部分には紋章が刻まれている。この紋章と同じものがキラの肩の部分にも浮き上がっている。とぼけた感じのキラは、マイペースにトレムとサラの少し後ろを歩いている。


「ほんとみんなせっかちなんだよ~。」と、キラが、少し駆け足で前を行く二人に追いついてきた。

「違う違う。お前が遅いんだよ。」トレムが返す。


 そう言われたキラは、不機嫌というより不思議そうな表情で首をかしげている。トレムのその言葉にはどうも納得がいかないようだ。納得がいかないとつい考えこんでしまう。このタイミングで、決まってサラが違う話題をキラに振ってくる。


「キラ、もうすぐ村につくわよ。そこで紋章の秘密が少しでも分かるかもしれないよ。」


 このタイミングで話題を変えてくるサラは、やっぱりすごい。

 キラは、考え込んでいた。自分が遅いのか?それとも他の二人が早いのか?…考え込んでしまうと、足取りがゆっくりになり、トレムにせかされてしまう。せかされるとまた考え込んでしまう。……という悪循環に入り込む可能性が大きいから気持ちを切り替えたいと思っている。するとどうだろう、見事なタイミングでサラが話題を変えてくれる。これもサラの持つ能力の一つなのだろう。予知?周りの人たちを癒す?キラが悩みのスパイラルにはまりそうになると、何とも絶妙なタイミングで話題を変えて食い止めてくれる。そのタイミングの見極めは、サラがピカイチだ。いやサラにしかできない「力」なのだ。キラも本当にありがたいと思っている。


 サラは、自分の肩の高さぐらいある杖を持っている。その先端には丸い宝石に翼のような飾りがついていて、サラの体に刻まれたものと同じ紋章が宝石に浮かび上がるように刻まれている。


「そうですね。サラさん。次の村にはきっと何か手掛かりがあるはずです。急ぎましょう。あいつらに追いつかれる前に…。」

「そうだぞ。早くいかないとあいつらに、村の名物を食べつくされてしまう。それだけは何としても阻止しないといけないんだ。」

「トレム!」もちろん二人からの同時ツッコミから免れる事はできなかった。


 トレムはとにかく食べる物のことが気になって仕方がないのだ。彼は、大きな槌を持っていた。そこにもやはりトレムの身体にあるものと同じ紋章が刻まれていた。トレムはその体の見た目通り腕力には自信がある。強いのは腕力だけではない。弱い人たちを包み込むような強く優しい心も持っていた。

 そんな3人は、モコチャの村を目指していくつかの峠を越え、自分たちの身体に刻まれた紋章の謎を解く手がかりを探していた。生まれた時からそれぞれの体に紋章があり、3人は紋章があるがゆえにそれぞれが持つ紋章によって果たさなければならない使命があった。彼らは紋章の持つ使命とその真相にある謎を解き明かすために、自ら旅に出た。それぞれの道を歩み始めた3人は示し合わせたように、彼らが出会うことも紋章が持つ使命を果たすために必要な出会いだったのだろう。そうして3人は紋章の謎を解明するために歩き出した。紋章の謎を解くためどんな苦難にも立ち向かい、乗り越えていった。


 どれぐらいこの道を歩いていたのだろう。3人の視界に次に訪れる村の入口が見えてきた。遠くに見える木でつくられた村の入口……それこそは、次に彼らが訪れる村、モコチャの村だ!!


 北の方からカミナリ雲のような黒い雲が近づいてきた。彼らはまだそのことに気が付いていないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤンターリの誓い 辻まこと @makoto-kogarasi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ