朱色の鬼姫、五色鬼の封印、そして清明が語る『呪』
「おい、起きろ」
「ここは…。」
目を覚ますと、そこは先ほどの市場の裏手の長屋であった。
すでに夜になっており、星が出ていた。
「俺は、どのくらい眠っていたんだ?」
「そうだな半刻ほどだよ。緊張が解けてから意識が飛んだのだろう」
その言葉に成幸は自分の左胸の部分、護符を取り出した。
これは一体なんだったんだ…?
そう言おうとして眺めていると
「おい、成幸」
清明はひらひらと一枚の呪符を見せた。
『回復』とある。
そのまま成幸の額に張りつけた。
「ここの住人は…」
成幸は周囲を見渡した。
平屋はほとんどが倒壊しており凄惨な光景だった。
夕方まで人が住んでいたとは思えない惨状に、言葉が咽に詰まってしまう。
説明するよりも早く清明は顎をしゃくった。
「ほら、見てみろ」
通りには怪我をしていても生き残った住人たちがいた。
「生きている…」
「奇しくも朱色の鬼姫が青鬼を倒したことで被害がこれだけで済んだんだ。その点はあいつに感謝しないといけないな」
「青鬼は完全に消えたのか?」
「そうだな、青鬼は消えたよ。まったく、死なないはずの五色鬼を滅するとは。それに朱色の鬼姫が持っていた刀は童子切安綱か…。あれがどういう経緯であいつが所持しているかは分からない…」
ぶつぶつと言う清明をよそに成幸の胸はしめつけられるように痛んだ。
「そっか…、なら鬼姫も消えたのか」
覚えているのは、あの巨大な五芒星の陣の中、鬼姫が取り込まれる姿だった。
清明曰く、末永くと言っていたこともあるから封印が解けるのはずっと先だ。
きっと清明がその気にならなければ封印は解けないのだろう。
「ん? 何を言っているんだ?」
「え? だって、鬼姫はお前が『五色鬼の封印』をしたんだろう?」
「していないぞ? ほれ」
清明は成幸の足元に指を差した。つられて視線を下げると
「すやすや、ぐーすかぴーすかー。」
涎を垂らして鼻提灯で眠っている鬼姫がいた。
しかも、元の少女の外見に戻っていた。
「あれ…、封印されたはずじゃ」
「封印したのはいけ好かん朱色の方だ。そう言えば、あやつ私とキャラが被っていたな。年上神秘的とか…げに恐ろしきはキャラ殺しというやつか。はたまた主役食いか」
「いや、被ってないし。それにどちらかと言えばあっちの方が主役のような…」
「そんなことを言う口はこの口かぁ? この口が言っているのかぁ?」
清明は両方の頬を力一杯に引っ張っていた。
「痛い、痛い、痛い」
「ふぅ、さてと、よし帰るとするか。成幸、お前、鬼姫を負ぶっていけよ。このままここに放置しとくとよからぬ者に攫われてしまうかもしれないからな。」
「まるで犬か猫のように言うんだな」
「お前、契約者だろ。責任持てよー。」
「それは成り行きで…」
「ぷぷぷ」
「何が可笑しい?」
「いやな?『呪』だよ」
「『呪』?」
「あぁ、名に縛られるという話だ」
清明は、いつも通り少し意地悪い笑みを浮かべていた。
「『成幸』という名前は『成り行き』に縛られているんだと思ってな」
完
朱色の鬼姫 鹿(シカ)ちゃん @kago1311
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