決着―
「…さて、と。これでいいかな」
さきほどの通りから一筋奥、清明は一人、腕を組んで決着の時を待っていた。
「何がだ?」
「!?」
声は間近からして反射するような反応速度で身を屈めた。
頭を掠めて手刀が空を切る。
「あ、っぶなー。」
清明は冷や汗を流しながら転がり距離を取った。
「面妖な回避行動を取るな。益々道化ではないか」
朱色の鬼姫は自分の手刀と清明を見比べて首を傾げていた。
「うるさいなー。さっさとこいよ。さすがにもう疲れた」
清明は挑発するように手招きする。
「是非も無し」
朱色の鬼姫は直線距離を最短で疾駆する。
「あいかわらずオツムが弱いな!」
朱色の鬼姫が踏んだ箇所にはあらかじめ細工がされていた。
『木檻』『棺牢』『氷庫』『金縛』
朱色の鬼姫の手を鉄製の拘束具が縛り、身動き取れないように木の檻が雁字搦めにする。四肢は凍り、首から上が露出していた。
「この程度では我を…」
「分かっているさ。狙いはまた別だよ。今だ!」
屋根の上、そこに成幸はいた。
「心臓!」
成幸は断頭台で処刑される処刑人を屠るように刀を振り下ろした。
刀の軌道は朱色の鬼姫の頭、頭角である。
硬いと思われていた角は意外にもすぐに落ちた。
「ぐあぁあああああああああああああああああああああああああああ」
途端、鬼姫は悲鳴を上げた。
苦悶の声である。
拘束具を力任せに壊し、頭を抱えて身体を折る。
なんとか立っているか足元が覚束無い様子だった。
「お、おい…清明、大丈夫なのか? お前がこれで鬼姫が無事に戻ると言ったから付き合ったんだぞ」
「戻る、かもだな。」
「さっきは言わなかっただろ」
「さあて…どうだったかな」
「お前な! お、おい、鬼姫大丈夫か?」
不用意に近付いた瞬間に首を掴まれた。
「ぐっ…」
首の根元まで指は食い込んでおりそのまま持ち上げられる。
「…我は我の心臓を取り返すのみ」
苦悶の声で、眉間に皴を寄せ苛立たしげに口にする。静かに告げる鬼姫は左手を手刀に模してそのまま成幸の胸目掛けて差し込んだ。
「!?」
肋骨はおろか胸骨など意に介さぬほどの力で、左の胸を貫こうとした。直前、手刀は左胸の前で止まった。
「なんだ…、これはっ」
突然、鬼姫が奇声に近い声を上げた。
「…お前ならそうしてむざむざ心臓を狙おうとすると思っていたよ。案の定、私の思惑通りに動いてくれたな」
不敵な笑みを浮かべながら、清明は朱色の鬼姫の隣に立つ。
清明は成幸の胸元、一枚の護符に目をやった。ここに来る道中に成幸に渡しておいた札である。
「こいつはな、香澄の父親の忘れ形見だよ。成幸に持たせて正解だったな。私のように線引きの難しい者よりも成幸が持っていて方が役に立つ」
朱色の鬼姫の指先はそれに触れてしまっている。
「お前…今まで力を失っていたはずっ」
苦悶の表情を浮かべながら鬼姫は、服に付いた土を払い落としている清明を忌々しげに睨み付けていた。
「馬鹿者。私の力を失ったままにしておきたいのなら青鬼が消滅する前に私たちを殺しておくべきだったな。私がどんな封印をしているかなどはお前が一番よく知っているだろうに」
「くっ」
どうやら鬼姫にも察しがついたらしい。
清明は何やら勝ち誇ったように鬼姫に告げた。
「青鬼が消滅した今となっては私にある程度の力が戻ったということだ。よりにもよって完全に滅するとはな…これでは結界の役に立たないではないか。まだ全力ではないが今のお前なら十分だろう。さぁ、朱色の鬼姫よ。次はお前にどんな封印をしてくれよう」
傲岸不遜な清明は邪悪に満ちた顔をしていた。
九字の印を切る。
声明の背後に巨大な朱色の五芒星が浮かびあがった。
「くっ、離れない…。」
目に見えて、鬼姫は動揺していた。
退こうにも護符から手が離れないのか焦っていた。
「では、末永くさようなら。朱色の鬼姫」
清明はそう言うと、朱色の鬼姫は陣の中に吸い込まれていった。
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