第15話 夢か現実か
無力化していたと思われていた駆逐艦からの攻撃を受けたランス機は、回避行動を始めた。レーダーでロックオンされた後の攻撃は、高い確率で命中する。ロックオンから逃れるために、激しく機体を移動させる。
「ロックオンから逃れる他の手段はないのか?」
ランスは、機体に搭載されたAIに他の選択肢を要求した。
「小惑星などの陰に隠れる方法があります。周辺を探します」
AIが周辺を探している間も、ロックオンの警報は鳴りっぱなしだ。機体の激しい運動で、常に高いGにさらされた状態だ。とても長い時間に感じる。
「機体が隠れることが出来る小惑星を確認しました。回避行動をしながら移動開始します」
目標となる小惑星が表示される。大きさは、問題ないようだが、距離が遠い。
ディスプレイに表示された駆逐艦からミサイルが発射された。ミサイルの軌道を予測しながら回避行動を続ける。
ロックオンされた状態では、ミサイルは的確にロックオンされた標的に向かってくる。通常装備であれば、ミサイルで迎撃するということも可能だが、今は偵察装備で、ミサイルは搭載していない。
「AI、ミサイルを迎撃できる装備はないか?」
「偵察モジュールでは、迎撃できる装備は搭載されていません」
AIが高い知能を持っていても、装備していないものはどうにもならない。敵の駆逐艦も、反撃できる武器があれば最後まで抵抗する。軍人としての誇りとでも言うのだろうか。
敵の駆逐艦から続けてミサイルが発射された。確実に攻撃を成功させるつもりだ。回避行動が更に激しくなる。これでは、生身の体のほうが限界に来てしまう。
小惑星に近づいてきた。これでやっと、楽になる。小惑星の裏側に機体を滑りこませる。その瞬間だった。駆逐艦から光が見えたと思った瞬間に機体に大きな衝撃が。なにかが命中したようだ。機体はバランスを崩し、回転しながら遠くに弾き飛ばされた。
回転よるGで気が遠くなる。脳への血流が滞ることで、意識が低下し、気絶することも多い。ミサイルの回避行動で遅くなった機体に、レーザー兵器などで攻撃を加えるというのは、典型的な攻撃パターンだ。
攻撃で弾き飛ばされたので、ミサイルからの攻撃は避けることができたが、機体は制御不能のまま回転し遠くへ飛んでいる。
「AI、回転を止めてくれ」
「……か、かい……」
攻撃でAIの回路が故障してしまったようだ。機体を制御しようとしているが、うまく制御できていない。
「このまま、宇宙の藻屑となってしまうのか……」
ランスは、静かに目を閉じた。壊れた機体では、回転が止まったとしても帰還するのは難しいだろう。このまま、静かに死を迎えることになるのか。
機体に、また大きな衝撃を感じた。小さな隕石群にも突っ込んだのか断続的に衝撃が加わる。機体のダメージは深刻な状況だ。AIも既に機能できていない。衝撃で、機体の回転はゆっくりとなった。
宇宙空間では、無音だ。真空では、音を伝達する物質がないため無音だ。静まりかえった中で、ただ座ったまま死を迎えるのか。
また機体に軽い衝撃が加わる。それすらも気にならなくなってくる。無というのは、こういう感覚なのか?
「ランス!生きてる!」
聞き覚えのある声が聞こえた。幼なじみのアイリだ。一緒の小隊になったが、なぜ声が聞こえるのだろうか?目を開けると画面にも、アイリの顔が写っていた。
「ランス生きてた!攻撃を受けてるのを見たから探しにきたの。外部電源を接続したから、機体は動くはずよ」
「アイリ、これは現実なのか?それとも…」
「現実よ!脱出装置が生きていれば、中央部分だけで飛行は可能よ」
「そうなのか…AIは機能できていないようだが」
ランスは、安堵したのか、そのまま眠ってしまった。アイリは、本当にここまで助けに来てくれたのだろうか……
銀河自由戦争 寝多井屋 @kuninoko
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