電子の海で君を見つめて。
白川津 中々
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嫌なブログを見た。好きだった女のブログだ。
プロポーズされました。
機械的なフォントからでも感涙の念が滲み出ている。忌々しい。不幸になればいいのにと、具体的に言えば家庭内暴力にあって一生消えない傷が顔にできればいいのにとさえ思う。無論逆恨みだ。文句あるか。
しかし、そうか。結婚か。まぁそりゃするか。十年だ。今日日未婚というのも珍しくはないが、男女限らず好みの異性がいれば番になりたくもなる。三十年も生きればそんな相手の一人や二人、出会って然るべきだろう。
それにしても悔しい。苦しい。どこの馬の骨かも分からんような奴にあの女を取られたと思うと、夜な夜な長く秘事に勤しんでいると思うと、近い将来俺の知らない遺伝子が刻まれた彼女の子供が産まれると思うと、もう、我慢が、我慢が、我慢ができない堪えられない! 畜生! いったい俺の何がいけなかったというのか! 何故俺はあの女に選ばれなかったのか! 何がいけなかった! 何が駄目だった! あぁ! 納得できない! 腹の虫がおさまらない! ただただ憎しみだけが募っていく! おのれ! おのれぇ! 怨! 怨! 怨!
モニターの前で怒り狂ってみせたが実際それは見せかけの乱心だった。何故かと言えば俺は俺が避けられた理由を骨まで理解しているからである。そうだ。そうなのだ。すべては俺が原因なのだ。何を隠そう俺は元ネットストーカー。毎日チャットを送ったり突然電話番号とメールアドレスを送ったり電話したいだの会いたいだのと怪文書を送れば疎遠にもなろうというもの。実際に会ったこともない人間に随分と熱を上げたものだ。思えば若くて愚かだった。今は老いて愚かだ。笑えない。
あぁ悲しい。しかし、この悲しみは……
冷静さを取り戻しモニタをジッと見る。ハンドルネーム(という言い方はもう古いか)とアイコンでしか知らなかった彼女が幸せそうに笑っている。
ベル・エポック……
彼女の時は進んでいる。あの頃から、俺とチャットをしていた時から、ずっと、ずっと、ずっと……
進まねばならぬ。不変の幻想は捨てねばならぬ。
俺はマウスを握りタブを閉じた。
記憶に蓋をして、明日を見よう。過去に生きるものは誰もいないのだ。いつまでも引きずっていてはいかん。まぁ、苛々はするが……
電子の海で君を見つめて。 白川津 中々 @taka1212384
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