第8話

気付けば土に倒れてた。

何が起きたかは知らないが、全身に痛みが奔り響いていた。

「見下してるつもりか?」

「..そんな事は無いけど、うん。

あんまり目立つ事しない方がいいよ」


「なんだソレ...おい。」「..うん。」

再び亜異故に戻る事になるし、仏に留まる事は無いが、構えていた大刀は黒い粉になり地の砂利になっていた。

「黒が消えた..」

「元を断ったのかね。」

稲荷はくたびれ二つに還り尻餅を突く

「随分無理したな」

「まったくだよ、勘弁しなんし。」

「稲荷握り喰うか?」

「……」「俺にもくれよ」「ああ!」

良い顔をされない飯を皆が求める様に思わず笑みを溢し歓喜する。体構造上半永久的に食物を生成可能なので幾らでも恵を与える事が出来る。

「儂にもくれんか!」

「ん、誰だお前は..いいけど。」

「へへ、悪いな」

「...お前何でこんなとこにいんだよ」

「確かに、変り客だ。」

「なんだよ、知り合いか?」

知りたく無くても知っている。否が応でも覚えてる。


「ジジイ、何してんだ!」

「あんだようるさいのぉ、わしゃもう時代変革の身じゃ。如来じゃねぇよ」

「みすみす時空に渡したってのか。

とんでもない馬鹿者だよアンタ」

「時空?

もしかして、先代の宝生様か!」

「いかにもじゃ。

今は実名を名乗ってるがまぁ、てめぇらに覚えられてもなぁ」

如来の時代を知らなければ、みてくれはみすぼらしい爺だ。本人は気にしていない様子だが。

「ほれ、飲むか?

適当にくすねてきた、大した酒じゃないがな。」

「けっ!

相変わらずだな、お前。」

「何とでも云え。

稲荷や、悪りいが若造と呑みてぇんだ

そこらで寝ててくれるか。」

「いわれずともそうするやんし。

生憎此方は疲れていてな、存分に眠る準備はできておる」

「上出来じゃ、静かにねむれ。」

崩れた石柱を修復し、元に戻す。

その後、小さな木筒に酒を注ぎ飾裡へ渡す。

「お前が出ていってどれほど経つ?」

「..知るかよ、降りたんなら関係無ぇだろが。」

「関係ない、本当か?

お前も勘付いている筈だぞ。」

「...嫌らしい奴だぜ糞爺」

名残の強い感覚か、上の出来事がある程度視えてはいた。

「大丈夫なのか?

まぁまぁの悲惨なもんだが」

「..まぁ、平気じゃろう。

阿弥陀の奴が簡単に逝くと思うか?」

「有り得ねぇ。」「じゃろ」

此度の仏の乱戦も、元はといえば爺のお陰。それも何となく見えていた。

「何を企んでやがんだよ」

「何もねぇよ

ただ間違えて落ちて、一緒に遊んで他所に出ただけだ。唯の遊びだよ、あの餓鬼も大してでかい意味は無かったと思うぞ?」

「やっぱし、抜けてよかったぜ」

「そりゃあ違えねぇな」

安い酒が喉を潤す。


如来堂

「宴も飽きたな..そろそろ動くか。

下へ降り、無駄な菩薩を殺して周ろう

秩序がより整理されるぞ、ふはは!」

「ご機嫌だな。」

「それは当然、何故なら我は...」

言葉を止めた。

城には己以外、居る筈が無いからだ。


「何者だ!?」

「一人しかおらぬ、数が多い訳では無いんだ。他に心当たりも無いだろに」

散布した金色こんじきの粉が収束し、この世の形を巻き戻す。

「新たな歴史とやらがらどんなものかと興味があってな、少し拝ませて貰っていた。薬師如来は眠っておるがな」

自ら投与した睡眠薬に違い丸薬により暫く目を覚まさずにいる。

「鳳凰や玄武は..!」

「生きておるぞ、奴等は元来〝死んだフリ〟が上手い。私も良く騙される」

一枚咬まされた訳では無い。

〝勝手に死んだ〟と思っていただけだ

「やはり若い力は素晴らしいな。

..だがお前は少し尽くし過ぎた様だ」


「..殺すのか?」

「いいや、寧ろ広い世界を観るべきだ此処にいる必要はないぞ。」

「う..待てっ!」「さらばだ、時空」

身体を浮かし外へ放り投げる。視野の広がる世界の旅を、阿弥陀様から贈呈された。

如来落ちる、城の下、奈落の底へと。

「ここは..まさか、亜異故!?」

不気味な森の住人が、歓迎する。


人は神に創られ、神は仏に創られる。

時代は連鎖し干渉し、余計なものを巻き込み徐々に肥大化していく。そこに間違いも失敗も、見出すだけで無駄な事、全てが終わりへ向かっているのだ死の概念然り、悲しみ然り..。

しかし中には希望も存在はしている。


「あっ!先生帰って来た!

先生、先生っー!!」

「ふふっ..皆、ただいま。」

薬師の教師は絶望で静かに微笑う。

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