第35話 伝えたかった、想い
ーー討伐報告後、奏介達は依頼完遂の証明書を受け取り、戦勝会が村で行われた。
後々知ったことだが、火口にいたフィニクスの亜種は所謂S級、[災厄]指定だったそうで、村人からは崇められていると言っていいくらいのもてなしを受けた。
そして、相も変わらず同じ宿に泊まり、朝を迎えた。
「……あ、おはようございます、サヴェーネさん」
「おはようございます、奏介様。疲れは取れましたか?」
「うーん……イマイチ……」
いつも通り、一番早く起きたのはサヴェーネだ。奏介がサヴェーネより早く起きれたことは今のところない。
「後は帰るだけではありますが、行きと同じく4日程かかると思われます。出発までに食糧を購入する必要があるので、それまではエルカ様と一緒にいるといいでしょう」
「な、なんでそこでエルカの名前を出すかな……」
ーーー依頼は完遂した。
だが! この遠征の目的はそれだけではない!
「いいっ? こことここが綺麗なお花畑で、ここが絶景のーーー」
「…わ、分かった、から…!タンマ……!」
エルカとエリーは、奏介が部屋から出ていくのを見計らい、密談を交わしていた。
「昨日の宴会であわよくば酔わせてくっつけようとも思ったのに、おにーさん一滴も飲まないし……」
「……(こくこく)」
エルカ、エリー、サヴェーネの3人は既にいくつかの作戦を練り遂行したが、成功は無し。
エルカが楽しそうな様子なので、ぶっちゃけエリー達は満足しているが、やはりここまで来たらくっつけて帰りたい。
「いい、エルカ!明日の夜はーーー」
熱を持った口調で説明するエリーと、それを真剣に聞くエルカ。
ーーーエルカの戦いは、まだ終わらない。
ーーーーー
「本日の見張り当番を決めます」
トライアの村から出発した、次の日の夜。
サヴェーネはさも"まだ決まっていない"かのような口調で切り出した。
「え? いつも通り、サヴェーネさんとオレで良いんじゃ……」
空気を読まない奏介がそんなことを言い出す。しかし、想定の範囲内だ。
「いつも通り、とおっしゃいますが、トライアの村に着く前の4日間の内半分は我々女性が見張りをしていましたが」
「……えっと、オレはどっちでも良いけど……」
「でも連日サヴェーネは悪いよね〜、てことで他の誰かが入るべきだよねっ」
サヴェーネとエリーの
「そうだな、サヴェーネさんも休ませてあげたいし」
「だよねだよねっ、てことでエルカをっ!」
「いや言い出したのはエリーだし、エリーがすべきじゃないか?」
「……えっ」
たしかに、当然といえば当然、至極当たり前のことだ。
(こ、これじゃあ他人に嫌な役目を押し付ける悪いヤツみたいになっちゃう!?)
そんなことに今更気付くのもどうかという話だが、この場を乗り切らなければ未来?は無い。
「じっ、実は私……眠たくて!」
「みんなそうだよ」
「実は起きてられない体質!」
「3日目と4日目、起きてたろ」
「ぬうぅ〜〜……!」
「いい加減、諦め…」
「エルカが一緒にしたいって言ってた!」
エリーが放った一言に、奏介は思わず言葉を止める。
「……な、なにを嘘を」
「いえ、そういえば私も聞いた記憶がありますね。で、どうなさるのです?乙女の頼みを無下にすると?」
「い、いや、そんな事……」
「え〜、エルカの頼みだもんね〜断らないよね〜?嫌われちゃうよ〜?」
サヴェーネとエリーに追い打ちされる奏介。その光景を見ているエルカはもはや『なるようになれ』といったカンジだ。
「別に、オレは構わないけど……エルカはホントにいいの?」
「…わ、私は……うん……」
奏介には断る理由もない。エルカもいいと言うのならそれで良いだろう。
「それでは、頼みますね。私とエリー様は先に休ませてもらいますので。あまり大きな音を立てないで貰えると助かります」
「見張りで立つ訳ないでしょう……」
ーーーそして、作戦は開始された。
パチパチと薪が燃える音が響く。
見張り開始15分、2人は一言も交わせていない。
(まずい、です……眠たくなりそう……)
エルカは見張りに慣れていない。エリーやサヴェーネと行った会議の際も真っ先に寝落ちしている。
(こんな事じゃダメです…動かないと……!)
そう思い、奏介を見るが……やはり、言葉を出せない。緊張してしまう。
心の中でずっと、「話しかけてくれないかな」、と願うが、その想いは届かない。
(そもそも、なんで好きになったんだろ……)
まだ出会ってから半月も経っていない。だが、どうしてもそうは思えない。
彼がスランタルに来てから、彼女はこの世界の事を彼に教えた。
彼と共に武器を買いに出かけ、そこで騎士と遭遇し傷ついた彼を慰めてあげた。
彼を強くするために、人工機関をメル邸へ取りに行き、ピンチの彼を助けた。
そして、今に至る。どこで好きになったのかはわからない。今思えば初めからそうだった気もするし、今この瞬間のような気さえする。
まるで……
(どこか、遠い昔に好きになったようなーーー)
自然と、口から言葉が溢れた。
「…星、見に行こ……?」
奏介は、少し驚いた顔をした後、少し照れ臭そうに言った。
「……見張りは、いいの?」
「…ちょっとなら、たぶん……」
ーーーほんとうは、みんな起きてるけど。
(もう少し、少しだけで、いいから……)
エルカはその日、生まれて2度目の"我儘"を願った。
(この時間が、続きますように……)
ーーーーー
「まったく。誘うのに20分近くかかるとは思いませんでした」
「まあまあ〜、エルカも勇気を振り絞ったんだから、大目に見てあげてよ、ね?」
馬車の窓から外を見ていた2人は、静かに微笑む。
傷つき、大事なものを失った少女が。
笑って、恋を楽しめる今に、感謝した。
ーーーー
「……よく、こんなところ知ってたね」
「…ん、教えて、もらったの……」
少し馬車から歩いた先、丁度木々がない空間で、2人は座っていた。
輝くのは、いつか見たのと同じ、満天の星。
「…ソースケ、今日で、何日目か、覚えてる?」
「ここに来てから、ってこと?」
……ほんとは、出会ってからって聞きたかったけど。
「えっと……14日、かな」
「…明日で、やっと…半月……」
「思ったより、早く過ぎた気がする。知らないものだらけで新鮮だったし」
「…いつか、いつかだけど……私も、見てみたい」
「何を?」
「……ソースケの、いた世界…」
「……いつか、連れて行ってみせるよ。この国を救ったら、すぐにでも。神にだって頼んでみる」
「……うん……」
「だから、それまでは……頑張ろうな、相棒」
「…ソースケは、へっぽこ、だから……ついてて、あげる」
「ーーー月が、綺麗だな」
「……うん」
ーーーこの世界は残酷だ。幸せな時間ばかり、早く過ぎてしまう。こんなにも、愛おしい時間も、終わってしまう。
なら、せめて。
これだけ、伝えないと。
「ソースケ。出会ってくれて、ありがと」
まだ、好きなんて伝える勇気は無いけれど。
一緒にいれば、いつか伝えられるから。
その日まで、お預け。
「……ああ、こっちこそ。ありがと」
たとえ、どれだけの試練が待ち受けようと。
挫けたりは、しないから。
自力で神になれば神でも文句は無いでしょう?〜聖剣使いの国堕とし〜 零R @51117141
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自力で神になれば神でも文句は無いでしょう?〜聖剣使いの国堕とし〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます