ふしぎな瑞葉ちゃん
僕は皆本蓮、数矢小学校三年生。今日は僕のちょっぴり不思議な同級生の事をお話しようと思う。
その子の名前は氷川瑞葉。くりっとした目の女の子。その子は五月だったかな、ちゅうと半端な時期に転校してきた。明るい瑞葉ちゃんにはすぐに沢山友達が出来たんだけど、少し変わった所があった。授業中に何もない所を見ていたり、物陰でクスクス笑っていたりする。
ある日の事だ。瑞葉ちゃんは学校にブレスレットをしてきた。同級生のいじわるな女の子がそれを見てはやし立てた。
「いけないんだー。先生にいってやろー」
すると瑞葉ちゃんはこう答えた。
「これ、付けてないといけないの……ミユ……おばあちゃんに言われて……ちからがぼうそうしちゃうから……」
瑞葉ちゃんは心底悲しそうにそう言った。言われた子はちょっと引いていた。うん、僕にはお兄ちゃんがいるから知ってる。それ中二病っていうんだ。誰にだってかかる病気みたいなものなんだって。瑞葉ちゃんはちょっと早くきちゃったみたいだってその時は思ってたんだ。
だけどね、学校で河童騒ぎがあった時瑞葉ちゃんにどうしようかって聞いたらお父さんに言えば河童退治ができるって言うんだ。実際瑞葉ちゃんのおじさんがやってきて何かしたら河童騒ぎは収まった。
「瑞葉ちゃんには不思議な力があるのかもしれない」
僕は段々そう考えるようになっていった。瑞葉ちゃんが不思議なのはそれだけじゃない。いつの間にか通学の行き帰りに白猫が付きそうように付いてくるようになったのだ。
「白玉、いつもありがとう!」
「にゃーん」
瑞葉ちゃんが声をかけると返事をするように鳴く、猫の白玉。真っ白でかわいい白玉と帰りたくて瑞葉ちゃんの通学路についてくるやつらが増えてきた。
「……うちの猫二ヶ月前にどっか行っちゃったの。もう死んじゃったかもしれない」
その中のひとり、藍那が羨ましそうに言った。瑞葉はくるりと振り返った。
「ほんと? じゃあ白玉にどこかにいないか聞いてみるよ」
「なーん」
瑞葉ちゃんはすぐに藍那の家の猫を見つけて連れてきた。
「あのね、きなこは私が泣いてるとずっとそばにいてくれるの」
藍那は何度も何度も瑞葉ちゃんにお礼を言った。他にも怪我した雀を見つけたり、頭が痛い子に触れたらすぐに治ったり……。とにかく瑞葉ちゃんは不思議な子なのだ。
今日はクラスで七不思議の話をしていて、放課後に確かめて回ろうって事になった。
「瑞葉ちゃんも行く?」
「うーん、七不思議ってでたらめだと思うけどついて行く」
「でたらめだって分かってて行くの?」
僕もそんなのはでたらめだって思ってるけど、あえてついて行くっていう瑞葉ちゃんの答えはよく解らなかった。
「あのね、人って怪異に触れようとしたときにそういうものを呼び寄せやすいの。だから念の為」
瑞葉ちゃんはそう答えたけど、僕は余計に混乱した。でもいいや、放課後瑞葉ちゃんと遊べるならどこだって。
「なーんもないね」
音楽室のベートーベンも体育館の照明もなんともないしプールは時季外れで入れなかった。みんなはがっかりして帰ってゲームしようって言いながら解散した。
「ちぇ、せめてトイレの花子さんに会えたらいいのに」
僕がそういうと、瑞葉ちゃんが急にキラキラした目でこっちを見てきた。
「蓮君、本当にそう思う?」
「え? うん、みんな見たがってるし」
「お友達になってくれる?」
「……? うん」
すると瑞葉ちゃんは急に僕の手を握った。
「じゃあこっち!」
「女子トイレには入れないよ!!」
僕はトイレの前で立ち止まった。
「そっか。じゃあそこで待っててね。梨花ちゃーん!」
瑞葉ちゃんは誰かを呼んだ。梨花って誰だろう。
『なぁに?』
トイレから出てきたのはおかっぱ頭に赤いスカートの女の子だった。
「こちらクラスメイトの蓮くん」
『どうしたの。ボーイフレンドを紹介してくれるの?』
「梨花ちゃんと友達になりたいんだって」
『えっ!?』
梨花という子が僕を見た。なんだろう、何か強烈な違和感を感じる。
『よろしくね、蓮くん』
その子が握手を求めて手を伸ばした。僕はその手を握り返そうとして気が付いた。手が……透けてる……。
「わぁ! おばけっ!」
ビックリした僕は後ろに後ずさった。すると、そこの床が濡れていて僕は後ろに倒れ込んだ。
「……う」
したたかにお尻をぶつけて起き上がると、そこに梨花って子の姿はなかった。
「もう! 蓮くんの嘘つき!!」
ただ猛烈に怒っている瑞葉ちゃんにひたすら謝って、僕は家に帰った。
「……やっぱり瑞葉ちゃんは変な子だ」
変な子なんだけど、なんだか気になるんだよな。
深川あやかし綺譚 粋と人情とときどきコロッケ【カクヨム版/完結】 高井うしお@新刊復讐の狼姫、後宮を駆ける @usiotakai
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