後編
この集落では、五〇年に一度、若い男が失踪する事件が太古の昔から今まで絶えることなく起きている。
そしてそれを大人たちは「神隠し」だと口を揃えて言うのだ。
全くもって馬鹿馬鹿しい。神など存在しないし、まして「事件」を神の仕業にするなど。
警官になる夢を持つ、正義感あふれる少年。彼は
ちょうど山の付近を歩いていた時のことである。そこは人気が少なく、少し不気味なところであった。──ガサリ、と何かが土の上を這う音がして、少年は驚いてそちらを見やると、そこにいたのは真っ白な蛇であつまた。色以外は普通なそれに、なんだ蛇かとほっと胸を撫で下ろした。
しかし、なんとも珍しいものである。好奇心につられるがままに少年は蛇に近づくと、蛇はこちらをジィと見た。それはまるで少年を
少年はそれにやけになって、なんとかして捕まえてやろう、そして自分の勇ましさ──警官になる夢が無謀でないことをみんなに示すのだと蛇を追っかけた。
蛇が往くすぐ後ろ──緩やかな傾斜の、だが枝葉が道を阻んで険しい獣道を、少年は夢中になって駆け上がった。枝が、葉が、彼の膝や頬を切りつけるも、さして気にならなかった。不思議な感覚である。彼はこんなに夢中に何かを追いかけたことはなかった。まるで、何かに囚われたように彼は蛇を追いかけた。
急に、パと視界が開ける。何かと思うとそこは、大きな鳥居のある社であった。
こんなところに神社などあったのか、と少年は足を止めた。しかし不思議なのは、あるのは鳥居だけであって、それ以外は何もないのだ。蛇はというと、スルスルと大きな鳥居をくぐりどこかへと行ってしまった。しかしここにたどり着いた途端、先ほどのような情熱はどこかへ失せてしまった少年にとっては、もはやどうでも良いことであった。
大きな大きな鳥居。それをなんとなく怪訝に思いながら見上げて、少年は一歩踏み込んだ。
瞬間、ブワリと風が吹き付ける。巻き上げられ、こちらに向かってくる葉に少年は思わず目を固くつむり、腕をもってそれを防いだ。風が止み、少年は恐る恐る腕を下ろした。そして目をゆっくりと開けると、先ほどは確かにいなかった、自分以外の人間がいた。
彼女は現代には稀になった着物を着た、少女とも、女性とも形容しえるものだった。ニコニコと笑顔を浮かべた彼女の姿は、少年の心を捕らえるに容易に足るものであった。
彼女が口を開く。
「初めまして、可愛い子」
鈴のような可愛らしい声であった。
山に住うもの 成上 @Nai9
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