れもんすかっしゅ

紡木 結流

ある日の手記

 あなたは、魔法少女をしっているかい。

 かわいい『じゅもん』を唱え、『きらめく』光に包まれて『かわいい』姿に変身する少女。

女の子なら1度は憧れたこともあるだろう。私もそのうちの一人だった。信じて疑わなかった。女の子は、杖を振ると大人になれる。それも、理想の大人に……


実際、私は杖がなくても大人になれた。

鏡を見てガッカリする。こんなの私じゃないって涙が出たりもする。

その度に、あの少女に憧れた毎日を思い出す。甘やかな追憶。私は少し咳き込む。

『夢見る夢子』だと、母は私に言った。突き刺さって取れない魚の骨のような『呪い』だった。でも、彼女には見えていたのだろう。『理想』じゃないのだ、私は。愛されない。愛される資格もない。私はここでとけて消えてしまったほうがいい。

きっと私は魔法少女に退治される人間だった。苦しい。何度そう思ったか。ゴミだと思ったか。

そうだった……出来損ないの悪役は壊してだってもらえない。


サイダーにレモンを絞る。

ぽとりと音をたてて、種がテーブルを転がる。私の口から溜息。聞いたことがある音だった。『夢見る夢子』という罵り言葉のすぐあと……

種はきっと、コップの中の魔法少女になりたかった

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れもんすかっしゅ 紡木 結流 @candy_snowdrop

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