２度めの野球人生は軟投派？ ～男でも野球ができるって証明するよ～

ワンバン攻略法

　二条さんはマウンドに戻った俺を確認すると、座ってアウトコースに構える。キャッチャーが構えるのを確認した俺は、ストレートを投げるときと全く同じリズムでスライダーを投げる。

　アウトコースにコントロールされたスライダーを、二条さんのミットはボールを追いかけるように捕球する。

　続けて投げるうちに二条さんも慣れてきたらしく、特に問題なく捕球している。だがボールを捕った時にミットが流れるのが気になる……。

　流石に比べるのは酷だけど、こうやってピッチング練習をすると「前の世界」で受けてくれていたプロのキャッチャーの上手さが際立つな。基本的に捕る時ほぼビタ止めだし。フレーミングって言うんだっけ？

　スライダーを１０球投げ終えた俺は少し間を開けて、二条さんに挟んだボールを見せる。今からスプリットだよーのサインだ。二条さんは軽く頷いて、少し低く構えた。

　もちろん手加減するつもりはない。スプリットはストライクゾーンギリギリからボールにすることで真価を発揮する。とは言ったものの今の球速ならそんなに問題もないはずだ。

　そんな事を考えながら投げたスプリットは、ほぼイメージ通りにワンバウンドした。

～～～

　結局俺が投げたスプリットを二条さんは３球弾いた。

　今日投げたボールはコントロールもうまく効いていて、ほとんど同じポイントでワンバウンドしたがこの結果だ。

　見た感じ二条さんはノーバウンドかワンバウンドで捕るかの判断が遅い。それでどちらのタイミングで捕るか躊躇してボールを弾いている。

　正直言ってこれだとスプリットは決め球にするにはツライかもしれない。

　まあ初めてバッテリーを組んだことを考えるとしょうがないのかもしれない。

　変化に慣れてくれれば後ろに逸らしたり弾いたりすることも少なくなるだろうしね。ただ現段階ではスプリットを決め球にするのは保留かな。　

　とりあえずピッチングに付き合ってくれた二条さんに俺は近づく。

「二条さんありがとう。いい練習になったよ」

　テンプレっぽい感じで声をかけつつ、二条さんにボールの感想を聞いてみる。

「神山くんコントロールいいね。本当に野球やったことないの？信じられない」　

　もう野球部員には俺が野球未経験で、壁に向かってボールを投げていただけの経験しかないことは周知の事実だ。動きがこなれているのはプロの動きに似せてるからと言うのが公式設定だ。もちろん今更この設定を崩す気もない。

「そうかな？やっぱり一人で壁に向かって投げてるとすることなくてさ……。投げる時にピンポイントで狙う練習したのが良かったのかもしれない」

「そっかぁ。でもごめんね。何回も弾いちゃって……。気になったでしょ」

「いやいや。人に捕ってもらえただけでも十分嬉しかったよ」

　実際人に投げるたときの感覚を試せてよかった。その点では収穫はあった。

　明日からのメニューを考えていると、二条さんは少し下を向きながら俺に声をかけてきた。

「……どうしたら捕れるようになると思う？」

　そう言って地面を指差しながら俺に問いかける。おそらくさっきのスプリットが捕れなかったことがお気に召さないようだ。

　でもなぁ……。なんで俺に聞くかな。そりゃ捕れるようになる方法はあるよ。

　１０メートルくらいの距離から、ワンバンでキャッチャーに思い切りぶつけるように投げてそれを必死で捕るとか。原始的だけどプロでもやってるくらい効果は抜群だ。

それを毎日ボールの入ったカゴ一杯分（約１００球）やってたら、「前の世界」のときのキャッチャーはものすごく上達した。

　結局後ろに逸らさない練習なんて、頭を使うよりもやった数だけ上手くなるもんだ。効率を考えたらこれが最強だと思う。センスなんかいらない。

　……ただ一つ問題があるとすればこれ女の子にやっていいのかな？

　「前の世界」の男に対してだったら心を鬼にしなくても普通にぶつける気で投げれるけど、流石に女の子にこれをやるのは俺は御免被りたい。

　こういうのは同じポジションの先輩が、みんな通った道だからと喜んでやるもんだけどなぁ……。

　「やっぱり反復練習しかないんじゃないかな？近い距離からワンバウンドを投げてもらって前にこぼすのを徹底すれば自然に余裕が出てくると思うよ。こんなの慣れの問題だし」

　当たり障りのない答えになってしまったけど二条さんは真剣に聞いていた。

　「慣れの問題なの？私昔からワンバウンドが来ると思うとつい身構えちゃって…」　　　

　「そうだと思うよ？毎日100球くらいずつやれば身構えることもなくなるんじゃない？単純に回数こなすだけで変わるよ」　

　二条さんは俺の方を見て何か言おうとしたが結局何も言わなかった。

　「じゃあ今日はありがとう。人に投げれて嬉しかった。またよかったら受けてくれると嬉しい」

　うーん。距離感がわからないから正直うまく答えられなかったけどしょうがない。

　それよりもスプリットどうしよっかな。