EPILOGUE - The Shift


EPILOGUE - The Shift



 あの事件から二年が経ち、私はあの事件の真相を以下のように捉えている。


 我々人類が「目」を得たのはいつ頃なのだろうか。そもそも、生物が目を得たのは、何のためだったのか。

 それはおそらく生き残る為――つまり、外敵から逃れ、より良いエネルギーを速く、大量に、効率良く取得、確保する為だろう。それが、機能的な側面から見た一つの必然なのだ。

 しかし、人類にとっての「目」は、そのような必然性から大きく逸脱してしまったのかもしれない。

 人は見るために目を得たのか、目を得たから見ることができたのか。生物は見るために目を得た。だが、人類はおそらく違った。

 目を持って誕生したヒトは、ヒトから人に成るに従って「目」の存在を応用し始めたのだ。

 それは、言うならば神への冒涜。自然と道理を超越しようと欲した者の思考だった。

 旧約聖書で言われる「主」はこう言った。



 「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ。」


 旧約聖書 第一章 二十八節



 しかし、人は聖書の「神」が言うような存在ではないのだ。自らの為に他を犠牲にできるような、そんな高尚な存在では決してないのである。

 神は人の為の「神」ではなかったのだ。自然、地球、宇宙……――そのような大きな「道理」の為の神なのだ。

 この事件は、その明証だ。

 人の見る現実は、自然ではない。人の見る未来は自然ではない。それらは、人の見る過去が酷く歪んだ「不自然」である故に存在する人類の誤りなのだ。

 神はそんな人間に、真実を見せた。純粋な過去を見せた。我々人類は盲目を通して正しい何かを見つめることができた。

 人は生まれる前から歴史という名の罪を背負う。罪を背負うその瞬間――誕生の時――を自ら見つめる目を与えた。

 そして、第二の誕生をもって人は死に、その手で、その目で奪っていった存在達が不条理で不自然な滅亡の炎から蘇る。

 人は不条理を呼ぶ悪魔の目を持ってしまった。だからその命を償いに捧げ、消えていった種を呼び戻す責務を負った。

 もう一度記す。もしも神という存在がいるならば、それは人の為にある訳ではない。人の為の神は「人為的」なのだ。神とは世界、地球、宇宙……、それらの為にあるのだろう。

 我々人類のような「大きく」て、そして「偉大」で、実は下らなく愚かな生物界の堕者は、その広い世界の一種族に過ぎない。愚かな人間はその事実を認めなくてはいけない。

 そのために、人類は今、生き残ったのだ。

 人は今、学ぼうとしている。その目が見るものを正しいものに変えるために。

 人を自然の道へと、シフトする為に。



 著 渡部秀真 『SHIFT』より





2010年 執筆 2011 年脱稿

2019年 十年前、高校生の自分へ、敬意と感謝を込めて改稿

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SHIFT らきむぼん/間間闇 @x0raki

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