選択肢B 部屋に監視カメラを仕掛けた。
選択肢B 部屋に監視カメラを仕掛けた。
その日も写真が届いた。そして今日は更に私の部屋のベッドの上に赤い文字で書かれたメモが置かれていた。メモにはこうあった。
「私はいつも見ている」
ついに私は耐えられなくなり、部屋に監視カメラを仕掛けた
実はこのカメラは、昨日念の為に買っておいたものであったが、私は何か恐ろしいものを見てしまうような予感がして、それを設置できずにいた。しかし写真だけでなく妙なメモまで見せられたらもう怯えている場合ではない。何もしないでいる方がよほど恐ろしいではないか。
私は部屋全体が映るようにカメラを設置した。それから少しして部屋を出た私は、近くのファミレスとネットカフェで一日を過ごした。思えば、私は両親の忠告に従っておくべきだったのだ。両親の言うとおりにストーカー被害に遭って初めてその恐怖が解った。
カメラを設置してから丸一日経って、私は恐る恐る帰宅した。警戒心を高めながら部屋に入る。ポストにはいつもの様に写真の収められた封筒が入れられていた。心臓の音が早鐘のようになる。徐ろに部屋に入ると、ベッドの上にはメモらしきものが置かれていた。
私は緊張に押しつぶされそうになりながらメモを見る。
「やっと会えたね」
その文字を見た時、静寂をチャイムの音が破る。私は思わず短い悲鳴を上げてしまった。その刹那ゆっくりと玄関のドアが解錠された音がする。私は恐怖心がピークに達し、その場に座り込んでしまった。ドアが開き、足音がする。
そして侵入者がついに私の視界に入る。
――母親だった。
「全部……お母さん……だったの?」
私は全てを理解した。母が私を脅かして、一人暮らしをやめさせようとしていたのだ。全部、母がやったことだったのだ。
男など関係なく、スペアキーを持っている母がやったことだとしたら何も不思議なことはない。
「やめてよ、こんな趣味の悪い悪戯!」
私は悲鳴のような怒号を飛ばした。すると母はキョトンとした顔で言う。
「留守電に入れておいたでしょう、今日こっちに来るって。何を怒ってるの?」
私には母が何を言っているか解らなかった。すぐに携帯電話を確認する。不在着信と留守電が入っていた。
「じゃあ……写真もメモもお母さんがやったんじゃないの……」
「何のこと……?」
私はハッとして仕掛けておいたカメラをPCに接続する。動画を再生すると、私がカメラの位置を確認する姿が最初に映し出された。そしてその後には驚愕の光景が記録されていた。
画面の中の私は、デジタルカメラで部屋の写真を撮り始めたのだ。
その写真を印刷すると、封筒に入れ画面から消える。しばらくして部屋に戻ってくると、私はメモを取り出し赤いペンで何かを書きベッドに置いた。そして私はカメラの方を振り向き――やっと会えたね、口の動きはそう言ったように見えた。
「なに……これ」
私は母に全てを打ち明けた。
母は真剣な顔で私の話を聞き、最後に静かに言った。
「だから反対だったのよ。ストーカー被害者の知人は、実はあなたのことだったの。親切にした男から好意を持たれ、その男から酷いことをされたあなたはその事件に関する記憶をすっかり忘れてしまった。まるで人格そのものが変わったかのように」
私は、私の中の「私」の存在をその時初めて理解した。両親の嘘を引き金に、私たちは一つになろうとしていたのだ。
『リョウシン』
選択肢Bルート 「両親の嘘」 了
リョウシン らきむぼん/間間闇 @x0raki
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