第3話 無重力

その人があたしの夫となるらしい。

AIが決めたということらしい。


アルファケンタウリまで20年かかる。

今二十歳の者がハコブネに乗っても惑星到着する頃にはもう40。若くはない。惑星開拓は難しい。

その状況を解決するために考えられたのが、ハコブネの中で出産、育児をするという力業。


ハコブネの中で子作り子育てをすることはある意味最重要任務という話になる。特にハコブネに乗る女は人口を適切に保つために存在していると言って良いと思う。

時代錯誤と地球に居座り続ける面々がバカ騒ぎしていたし、もちろん納得もいかない。


ただ居場所と役割が用意されているのは魅力的な話だった。



彼は動力関係の技術者だった。ハコブネには多分珍しい、宇宙開拓の理想に燃える住人なことに驚いた。

しかも彼がいないとハコブネが動かないとなると仇や疎かにはできない。


「それは過大評価に過ぎる。ボクは動力関係の技術者の一人に過ぎないよ」

彼は謙遜した。

「そんなことより」

彼はあたしをふわりとお姫様抱っこで抱き上げる。

「一度無重力になったらやってみたかったんだ」


クマの容貌と体つきの彼だけど、優しいクマさんで良かった。


恋愛感情みたいなアテにならない気持ちよりAIのマッチングの方が優れてるということなのかも知れない。


あたし達はしばらく(三時間くらい……)無重力で遊んだ。彼は無重力下の中、三交代の仕事に向かう。

あたしの方は重力が安定してから、つまり、加速度1Gモードになるまで手持ちぶさたになる。やってはいけないことはバカみたいにある。トイレの使用とか普通の御飯を食べるとかもダメ。

もちろんおしっこすることも栄養とることもできるけど。それはオムツに排泄しチューブから宇宙食を食べるということ。

試しにやってみたらどうなるか?あちこちに生ゴミとウンコがふわふわ漂うという状況になる。


怠け者で良かった。


自堕落なクラゲ生活に慣れまくったせいでこのあと約三枚のお皿が犠牲になることになるとこのときのあたしは気が付かなかった……


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棄民 クレープ移動販売者 @936238

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