200万円に挑戦

須戸

ももたろう


 たった5文字が言えなかった。あと1問答えていれば、200万円が手に入ったんだが。



「皆さんこんばんは。『早押しクイズ! 1 VS 20いち たい にじゅう』のお時間です。この番組はパイロット番組でして、視聴者の皆さんの評判が良ければレギュラー化するそうです」


 さあ、始まるぞ。なんとしても、賞金をゲットしてやる。


「まずルールを説明します。挑戦者の方には、高校のクイズ系サークルまたは研究会に所属している20名の生徒の皆さん全員を相手に、早押しクイズで対戦してもらいます」


 あ、名札に学校名が書いてある。やっぱり有名校ばかりだな。俺の母校の生徒はいないか。まあ、誰が相手でも、本気を出すが。


「クイズは全部で20問です。1問正解するごとに、10万円の賞金が手に入ります。全問正解すると200万円です。ただし、間違えたり、20名のうちの誰かが先に答えたりすると、その場で賞金は全額没収となります」


 台本読んだが結構シビアなルールだよな。早押しで20問連続正解ってなかなかできないことだぞ。


「その代わり、挑戦者の方は、途中でやめることもできます。その場合は、その時点での賞金を持って帰ることができます」


 とにかくやれるところまでやって、賞金は持って帰ろう。


「1人目の挑戦者の方は、自身も高校時代にクイズ研究会に所属していた、花柳誠はなやぎまことさんです」

「よろしくお願いします」

「どうですか、自信のほどは?」

「そうですね。高校生の皆さんも強敵だとは思いますが、賞金は手に入れたいと思います」

「おおっ、それは自信があるということですね」


 そうは言ってねえ。まあ良いか。


「それでは花柳さんの挑戦です。第1問、お願いします」

「問題。なぜや」

 ピンポーン。

「早い! まだ3文字しか言ってないのに。花柳さん、答えをどうぞ」

「ジョージ・マロリー」


「正解! よくわかりましたね。あ、でも、高校生の中にも同じくらいのタイミングで押している人、何人かいるみたいですね」


 当然だ。クイズ界では有名な問題、いわゆるベタ問だからな。この問題自体が漫画に出てきたこともあるらしいし。


「ちなみに今の問題は、『なぜ山に登るのか』と聞かれて『そこに山があるからだ』と答えたと言われている、イギリスの登山家は誰でしょう? というものでした」


 正確には、「山」ではなくて「エベレスト」らしいけどな。クイズの問題文では大体、「山」なんだよな。


「続いて2問目。挑戦しますか?」

「もちろんします」


 ピンポーン……「正解!」

 ピンポーン……「正解」

 ピンポーン……「せいかーい」


 よし。この調子ならまだいける。


「あっという間に10問正解です。すごいですね。続けて挑戦しますか?」

「はい、挑戦します」

「ところで花柳さんは、200万円獲得したら何に使いたいですか?」

「ええと、いつ仕事が来なくなるかわからないんで、今後のためにとっておきたいですね」

「えー、芸能人らしくない答えですね。パーッといきません? ていうか、その賞金の一部を使って、一緒に飲みに行きません?」


 なんでだよ。こっちは切実なんだよ。芸能人らしくないってなんだよ。

 はっ、しまった。ここで気の利いたことか独創的なことを答えておけば、好感度が上がって仕事が増えた、のか? 何も用意していなかったから本音が出た。

 でも、もう口から出た後だから遅い。それに、金は大事だ。続けよう。


「とりあえず次の問題にまいりましょう。11問目です」


 ピンポーン……「正解!」

 ピンポーン……「正解」

 ピンポーン……「せいかーい」


「とうとう19問目になりました。それでは、問題をお願いします」

「問題。日本国内にあるテーマパークで、サン」

 ピンポーン。

「ハーモニーランド」

「………………正解。どうしてわかったんですか?」

「日本国内にあるサンリオのテーマパークといえば、バラエティー番組などでも紹介されることの多いピューロランドが有名ですが、クイズに出るのはもう1つの方だと思いました」


 実は、ここに来る前にやってたスマホアプリで、たまたまこれと同じ問題が出たんだよな。ラッキーだった。


「さあ、いよいよ20問目、ラストの問題です。正解すれば200万円、失敗すれば0円です。花柳さん、挑戦しますか?」

「うーん」

「僕的には、ここまで来たんだから挑戦して欲しいんですけどね。ルールなんで、190万円、持って帰っても良いです。時間はたっぷりあるんで、じっくり考えても大丈夫ですよ」


 大抵この手の番組って、最終問題は正解させる気ないんだよな。今中断すれば、賞金は確実に持って帰れる。だが、今の調子でいけばもしかしたら……。

 それに、挑戦した方が番組が盛り上がるだろう。


「挑戦します」

「決断はやっ。本当に良いんですか?」

「頑張ります」

「それでは行きます。20問目、最後の問題です」


 この問題さえ答えれば、200万円が手に入る!


「最終問題は、映像問題となります。今から画面に1枚ずつ、計4枚の絵が出てきます。それらから連想されるものをお答えになってください」


 1枚目は犬か。ここは様子見だな。

 2枚目、猿。犬猿の仲は犬と猿しかないから違うな。干支も多分違うだろう。なら、どこかの地名とかか?


 ピンポーン。


 今誰か、3枚目が出る瞬間に押したぞ。それだけ自信があったのか?

 きっとこのタイミングでCMが入るんだろうな。収録ではすぐに答えわかるけどな。3枚目の絵を見れば……って、きじかよ。なんで最終問題が、こんなに簡単なんだよ。


「おおっと、花柳さんじゃない。ボタンを押した方、答えをどうぞ」

「桃太郎」

「……正解! 押すの早かったですね」

「2枚目でヤマを張っていて、3枚目が予想した通りだったら、答えられると思いました」

「ちなみに、4枚目に出てくる予定だった絵は桃でした」


 くそっ。確実に答えは知っている問題だったのに。ここまで正解を重ねて、積み上げてきた賞金が。


「ということで、賞金は全額没収です。花柳さん、どうですか? 今のお気持ちは」

「賞金を持って帰るチャンスだったんですがね。逃してしまいましたね。せっかくなら200万円が良いという欲が出たばかりに、大切なものをなくしました」

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200万円に挑戦 須戸 @su-do

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