ヤシロの変身大作戦! 社の杜 第6話

いつもの喫茶店でいつものようにアルバイトをしていたら、この店の常連客である朱美さんに、カウンター越しに声をかけられた。


「ねぇ、ヤシロちゃん」


「はい、なんですか?」


「ヤシロちゃんってお給料は何に使ってるの?」


「食費だけで消し飛んでますね」


「あっはっは!何それぇ!」


朱美さんは手を打ちながら大笑いしている。仕方ないのだ。山には私が食べられるモノが少ない。お給料の殆どは食費とケーキに費やしている。美味しいものが食べられる。迷いもせずに私はご飯を買いまくっていた。


「他に使い道はー?」


「ん...ないですね。食費だけです」


私がそう言うと朱美さんは笑顔をスっと引いて「じゃあさ」と言葉を始める。


「お洋服とかは?」


「服...ですか?」


「そう!ヤシロちゃんいつも巫女服でしょ?だったら可愛いお洋服で着飾っちゃうとか!」


再び笑顔になった朱美が身を乗り出しながら言ってくる。

神社に引きこもっていた私には、神社の備品であろうあの巫女装束しかない。

今まではそれで事足りていたし、欲しいとも思わなかった。


「うーん...私にはまだ早そうです」


そう言った瞬間、朱美さんの顔はまるで新しいオモチャを買い与えられた子どものように


「そんなことないよ!...私がお洋服選び、手伝ってあげるね」


目をキラキラと光らせた。




「おまたせ〜!」


アルバイトがない日の午前、朱美さんと街で待ち合わせをした。

昨夜、雨乞いをしたにもかかわらず晴天なり。雨女の朝雲は助けてくれなかったのだ。


「いえ、そんなに待ってないです」


「そう?さあ早速ヤシロちゃんを変身させちゃおう!」


意気揚々と私の腕を引く。

なぜそんなにテンションが高いのは私にオシャレの心が無いからなのだろうか。


「どこへいくんです?」


「うん、私の行きつけのお店!色んな服を置いてるから助かってるんだー!」


「あっ!勿論お値段もリーズナブルだよ」


左様で。あまり持ち合わせもないので安価なのは助かります。

終始、子供に引っ張られる子犬のように着いていく。ついたお店はショッピングモールの中にある小さなお店だった。


「ここですか?」


「そ、ここ」


「結構小さいですね」


その店の中には数点のお洋服と試着スペースしか置いてなかった。とても色々な服が置いてあるようには見えなかった。


「そうなんだ。このお店は倉庫に服を詰め込んでて、希望の服やカタログを店員に言うと持ってきてくれるんだ」


「へぇ...店員さんが大変そうです」


「あはは、まあね」


「このお店のいい所は楽な所かな。希望を言うと似合いそうな服を持ってきてくれるからね。それに、キレイな服を試着できるからね」


ああ、普通のお店では色んな人があれこれ触って試着とかするから...潔癖な人には堪らないのだろう。...でも裏でどんな状態かは分からないからそれはそれでといった感想ではある。


「さて、じゃあ....んーヤシロちゃんにはどんなのが似合うかなー」


「普通でお願いします...」


「ガーリーかなぁ?フェミニンかな?それともクールにビューティー?」


な、何を言っているのかわからない...。

それは言葉なのだろうか。


「.........」


「うーん...でも15歳でしょ?ここはガーリーがやっぱり可愛いかな?店員さーん」


朱美さんは手でカメラを作り私を何度か移すと店員さんを呼んだ。一言二言会話すると店員さんはどこかへ行った。恐らく服を用意しているのだろう。


「ふっふっふ楽しみだねぇ!」


「はあ」


朱美さんのテンションに付いていけない。本当になんでそんなにテンションが高いのだろうか...。

3分ほど待っていたら店員さんがいくつかの服をキャスターで持ってきた。


「ではご試着ください!!」


満面の笑みで朱美さんが服を差し出してくる。その圧力に負けた私はその服を受け取り試着室に向かう。

渡された服をよく見てみると、白いシャツに薄い青のパーカー、淡いピンクのフリフリスカートだった。うーん。


「ささ、どーお?」


「......はい」


見事に変身した私が朱美さんの前に出る。

じっくりと私を見た朱美さんは口に手を当てながら


「似合わないね」


言い切った。私もこれはどうかと思う。

なんかザ・女の子?というような感じ。


「なんかあれだね...年齢を無理している感じが...年齢はあってるのに...」


「どうしてでしょうね。違和感が」


「うーん...ヤシロちゃんは大人っぽい感じがあるし...フェミニンの方がいいのかなぁ...」


そういうと朱美さんは再び店員を呼んだ。


「じゃあ次はこれに着替えてね」


次に渡されたのは随分と落ち着いた雰囲気の服だった。白のブラウスに黒のロングスカート着てみる。


「...なんか違うね」


なんか違う。悪くはないんだけれどもよくもない...ふわふわした感じだ。


「うーん、やっぱりまだ幼さがあるからね、若干違うんだよねぇ...」


「あのー」


2人でうんうん悩んでいると見兼ねたのか店員さんが声をかけてきた。


「よろしければ、こちらなんていかがですか?」


そういって服を用意してくれた。

まあ、悪い意味で目立っていたから、さっきからチラチラとこちらを伺っていたのに気がついていた。


「どうも...」


受け取って試着室に行って着替える。


「どーお?...おぉ」


外で朱美さんと店員さんが仲良くこっちに注目している。


「いいですねぇ!」


「いいね!」


そして2人でハイタッチをしている。

仲良いなぁ。

用意してくれた服はシンプルなもので、青い柄付きパーカーと黒いスカートだった。

スカートは短いものではあるが、パーカーが少し大きくダボ着いている。

そのダボダボさが私の年齢にマッチしているようで、違和感は無い。というより似合っている...と思う。


「....」


「似合ってるよ!」


「似合ってますよ!」


2人が交互に声をかけてくる。

そろそろ鬱陶しくなってきた。


「これ...いくらですか?」


「えーと...全部含めてこれくらいです」


店員さんが示した値段は優しいもので、余裕のあるものだった。


「それじゃあこれを下さい」


「はい!ありがとうございます!....このまま着ていかれますか?」


「いや...」


「是非お願いします!!」


朱美さんが私にカットインしてきた。

素早い動きで私が着てきた服を店員さんに渡し、店員さんもスっと受け取った。

仲良いねやっぱり。


「じゃあお会計を...」


私が財布を出そうとすると朱美さんがまたカットインしてきた。


「私が払うよ」


「え?でも」


「いいのいいの!付き合って貰っちゃったし!」


そういって店員さんにお金を払う。


「...ありがとうございます」


「うん!また付き合ってね!」


次は、私が朱美さんプレゼントをしよう。

そう思いながら私たちは家を出る。

今はお昼を少し過ぎた時間だった。


「それじゃあお昼にしよっか!何が食べたい?」


「そうですね.....パスタとか食べたいですね」


今までとの私とは違う、新しい私がそこにいた。

晴れやかな気分で街を闊歩する。なるほど、オシャレに気を使う理由が解ったと思う。

朝雲達にこの服を見せびらかそ。

そんな事を考えていたら、無意識にふんふんと鳴らしていたことに気がついた。


社の杜 7に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

社の杜 えすきゅ〜 @SQ231

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ