第50話 『かんしゃかんげき』

子供時代からおとなしい性格で、

あまり人づきあいを好まなかった女友だちが亡くなった。


葬儀も身内だけですませたらしく、

結婚してから疎遠になっていたP美さんも

あとから

花束と香典をもってあいさつに行った。


その日の夜、

友人が枕もとに立った。


そして、


「ありがとう。わたしと仲良くしてくれて。

 あなたには感謝しかないわ。

 ほんとうにありがとう」


と涙を流しながら頭をさげた。


P美さんも、


「わたしこそありがとう。

 もっといっしょに遊べばよかったね」


と返事をした。


朝、

P美さんのほほは涙で濡れていた。


とてもせつない気分ですごした

その日の夜。


また友人が枕もとに立つ。


「仲良くしてくれてありがとう。

 あなたには感謝しかないわ。

 ほんとうにありがとう」


と昨日とおなじセリフを口にした。


「いいの、いいのよ。

 はやく天国に行ってね」


涙をうかべて声をかけた。


だが。


それで終わりではなかった。


毎晩毎晩

P美さんの枕もとに友人は立ち、


朝が来るまで


なんどもなんども


感謝の言葉をくり返すのだという。

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すきま怪談 かさぎたすく @kasagi-tasuku

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