第49話 『川上から』

夏休み、

友人たちと川遊びをしていた。


近くの橋から順番に飛び込んで

度胸試しをするのだ。


三メートルほどの高さだが、

それなりのスリルがある。


何度か飛び込んですこし飽きてくると、

今度は息止め対決をした。


そうして夏休みを満喫していると、

背中にペタリとなにかがくっついた。

ちょうど手が届かないところだ。


水草かな? 

と思って友人に見てもらうと、


「こ、これ、髪の毛ッ! 

 女のッ、

 長いッ、

 髪の毛だよッ!」


とあわてながら言う。


気持ち悪くなって体を左右に動かし、

背中にへばりついていた髪の毛を振り落とす。


大人がひとつかみして、

むしり取ったくらいの髪の毛の束が、

ポチャリと音を立てて水面に落ちた。


水流に乗った髪の毛は

クルクルと何度か回転してから川を流れていった。


真夏なのに全身に悪寒が走る。


「……な、なんなんだよあれ」


そう言いながら両腕の鳥肌をさすった。


すると橋の上にいた別な友人が、


「お、おいッ、みんなあがれッ! 

 はやく川からあがれッ!」


ツバを飛ばしながら、

大きな手振りで警告している。


いやな予感がして急いで河原にあがる。


そしてすぐにふり返ってみると、


川下に向かった

髪の毛の束を追うように、


大量の白いおふだが


目の前を流れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る