第48話 『恋うらない』

会社員のR子さんとN実さんは、

絶対に当たる、

という女性占い師のウワサを聞いた。


興味を持ったふたりは占い師と電話約束をし、

土曜日の午後に出かけた。


ただしその高齢女性は本職ではなく、

あくまで主婦業の片手間に人を占っているという。


そのため金銭は受け取らず、

かわりにお茶菓子と

新品のパズルが必要なのだという。


路地裏を歩いてたどり着いたのは、

話しに聞いたとおりのちいさな一軒家であった。


インターホンがあらず、

何度かドアをノックすると家の奥から返事があった。


あらわれた女性はにこやかな、

感じのいいおばあさんだった。


家の中に通されると、


「で、どんなことを知りたいの?」


とふたりにお茶を出しながら聞いてきた。


それでR子さんは、


「取引先の男性と結ばれるかどうかを知りたいんです」


とパズルとお茶菓子を手渡しながら言った。


「ああそう」


おばあさんは

パズルの箱をくるんでいるビニールを破りながら

気のない返事をした。


「時間かかるからねぇ。お茶でも飲んでてよ」


そう付け加え、

開封したパズルを畳の上にバラバラとまいた。


そしてそのまま

無数のピースを黙って凝視する。


「うんうん。

 あーあー。

 そっかそっか……」


ピースを指さし確認しながら

ひとりごとをくり返している。


おそらく、

のちのちはめ込むことを考えながらのことだろう。


相手の男性のことはもちろん、

R子さんの誕生日も聞かない。


ほんとうにこれで占ってもらえるのかと

ふたりは不安になったが、

そのようすをながめていることにした。


無言のまま、

前傾姿勢になってパチパチとピースをはめ込んでいく。


畳の上では順調にパズルができあがっていく。


二〇分ほどして、


「あー。ダメダメ。ダメだね、こりゃ」


ため息まじりに言った。


「え? ダメって、わたしとその男性のことですか?」


R子さんがたずねると、


「うん。そいつな、おっかぁがおるで」


「おっかぁ?」


つまり、

奥さん、ということだろう。


そんなはずはない。

モーションをかけてきたのは向こうのほうだ。


何度か食事もしたが、

そんな素振りは微塵もなかった。


「子供もな、ふたりおるわな。

 ……ん? いや。三人だ。

 おっかぁの腹に、もうひとりおるね」


子供がふたりもいるの……?

しかも奥さん、妊娠中……?


R子さんは言葉をなくした。


「アンタさ、まだメシを喰っただけだろ?」


その通り。

それ以上の関係はまだない。


「ここらで止まりなさい。

 これ以上は都合のいい女にされて終わるわ」


「そ、そんな……」


涙がこぼれそうになっているのに気づき、

横に座っていたN実が背中をさすってくれた。


おばあさんはパズルに夢中になって、

こちらをチラリとも見ない。


「その男はあれだ。

 おっかぁの腹がデカくて相手にしてもらえんもんだから、

 アンタを選んだんよ。

 

 ……いんや。こりゃ、アンタだけじゃないわ……。

 他にも粉をかけとるよ……」


「――えッ!」


「……あ。こりゃいかんッ!」


おばあさんは最後のピースを手にしながら、


「アンタ、そのおっかぁに刺されるでッ!」


そう予言するのと同時に、

パズルを完成させた。


後日、

ツテをたどって男のことを調べてみると、

やはり結婚していたとわかった。


子供もふたりいて、

現在、奥さんが妊娠中でもあるという。


「あのおばあさんが言ってたことは全部正しかったんです。

 ほんとにすごい人っているんですね」


ということは、

いつか奥さんに刺される、

という予言も当たる気がする。


なにより男の卑怯な本性に幻滅した。

それですぐに別れを告げたそうだ。


「……あ。それから、パズルのことはよく知らないんですけど、

 千ピース、全部白一色のパズルって、

 三〇分もしないで完成するもんなんですかね……?」


R子さんは首をかしげた。

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