僕と彼女の夢。
@saeyuzu8
第1話
12/25
街は見事にホワイトクリスマスとなり
行き交うカップルは色めきだち
今夜サンタになるであろう誰かのパパ達は
ケーキにプレゼントに大荷物で歩いている。
イルミネーションの輝きと
流れ続けるクリスマスソング。
いつもより浮かれた街。
そんな日に
僕たちは冷たい冬の海へと足を進めていく。
いつの日か彼女の夢を聞いたことがある。
「ねぇ、私がこの街を出たいっていったら
貴方は一緒に来てくれる?」
僕の腕の中で大人しく撫でられていた彼女が
唐突に投げかけてきた。
悩む事なんてない。
「もちろんだよ」
僕は彼女を撫で続けながら答えた。
すると、彼女は
満足そうに微笑み、語り始めた。
いつかは2人で、海の見える田舎町でひっそり暮らすのだと。子供がができたら
大きな犬を飼い、浜辺を駆け回り笑い合う。
寒い朝は2人で毛布に包まり
窓辺でコーヒーを飲む。
お散歩したり、一緒に料理したり
ずっとずっと毎日一緒にいて
今みたいに貴方に撫でてもらう。
そんな幸せな未来を夢見ているのだと。
仕事のことやお金のことを考えたら
現実的には難しいことだろう。
それでも僕は彼女に応える。
「素敵だね。いつかふたりで
海辺にカフェでも開こうか」
君は嬉しそうに笑い、
僕の腕の中で眠りについた。
愛おしい君のためなら僕は、職だって、生まれ育ったこの街だって捨てられる。
君がいれば、どこにだって付いていくよ。
そう思いながら、君の頬にキスを落とした。
出張族の僕はよく、彼女を1人にしてしまう
今まではそれが原因で
よく振られてきたけれど
彼女はいつも笑顔で駅まで迎えにきてくれる
そんな優しい彼女とはもう5年の付き合いだ
ずっと一緒にいたい。大切にしたい。
これは本心だ。
あと数年もすれば出張の回数も減り、
彼女に寂しい思いをさせないで済むだろう。
そう思って頑張っていた。
でも、それは間違っていたのかもしれない
12/23
僕は出張先で指輪を見ていた。
白くて細い、華奢な彼女の手に良く
似合いそうな、僕とお揃いの結婚指輪だ。
そう、来たる25日。
僕は彼女にプロポーズしようと思っている。
5年も待たせてしまったけれど
彼女を幸せにしたい思いは本物だ。
12/24
仕事終わりに彼女と待ち合わせ。
駅前時計塔の前に18時30分。
たくさんの人で溢れかえる駅。
笑顔で駆け寄ってきた彼女は
ぐるぐる巻きのマフラーに顔を埋め
真っ赤になった頬が林檎のようで
とても美味しそうだったのを良く覚えてる。
外食しようと思っていたけど
彼女が頑なに家に帰りたいと言うから不思議だった。
綺麗に飾り付けられた部屋の中
美味しそうな匂いの料理
キラキラ光る大きなツリー
「ジャーン!驚かせようと思って
ちょっと頑張ってみました♪」
サプライズにびっくりした僕を見て
したり顔の彼女はとても楽しそうだったのに。
一緒にご飯を食べて
一緒に泡風呂に浸かって
ベットで愛を育んで。
2人でゆっくり過ごした
そして僕の腕の中で大人しく撫でられていた彼女は、あの日のように僕に問うたんだ
「ねぇ、私が死にたいと言ったら
貴方は一緒に死んでくれる?」
僕の答えは決まってる
「もちろんだよ」
12/25
海辺も見事にホワイトクリスマスとなり
色めき立つカップルも大荷物のサンタたちも
冬の海に行き交う人は誰1人いない
クリスマスソングや街特有の喧騒の代わりに
波音だけが響く。
僕たちだけの空間だ。
海風になびく綺麗な黒髪、見える横顔
呑気にも美しいだなんて思ってしまう。
彼女は聞いたら答えてくれるだろうか?
なぜ、あんなに楽しそうに語ってくれた未来を迎えることなく、海に帰ろうとするのか。
彼女の手を握りしめる。
僕たちは冷たい冬の海へと足を進めていく。
一歩一歩ゆっくりと。
「私、子供作れない体質なんだって。」
夢見てた貴方との未来を迎えられないの
と彼女は哀しそうに笑った
あぁ、彼女は一人で苦しんでいた。
気づいてあげられなかった自分が
情けなくて悔しくて。
胸が痛くて苦しくて堪らない。
そして、狂おしいほど愛しい彼女を
まだ失いたくない
このまま失ってはいけない
僕が幸せにしたい。
同じ未来を一緒に生きたい。
その思いが溢れて止まらなかった。
震えながらも止まることなく進む彼女の手を
ぐっと引き寄せ、抱きかかえる
僕はバシャバシャと浜辺へと戻った。
僕の腕の中で、彼女は静かに泣いていた。
凍えそうなほど寒い。
海に浸かった脚が痛い。
それでも必死に歩いた。
今は閉じられている、海の家のベンチに
彼女を座らせ、浜辺に脱ぎ捨てていた
コートを彼女に掛ける。
「僕は、君の願いなら全て叶えてあげたい。
でもその前に、僕の夢も聞いてほしい。」
彼は海水に濡れた私の脚を摩り、暖めながら
話し出してくれた。
「僕の夢は君と一緒に
暮らしながらいつかは2人で
海辺に家を建てて、カフェをやること。
大きな看板犬がいて、君と戯れてるの見て
僕は幸せを噛みしめるんだ。
寒い朝は2人で毛布に包まりながら
僕の淹れたコーヒーを飲む。
ずっとずっと毎日一緒にいて
今までみたいに君を抱きしめて、キスして
イチャイチャする僕らの側で
呆れて眠る看板犬。
そんな幸せな未来を君と過ごしたい。
君が笑顔で語ってくれた僕との未来を
僕も君と一緒に送りたいと思っている。
僕の隣にいて欲しい
僕との未来を生きてほしい」
彼は泣き笑いながら、必死に
私に語ってくれた。
だから、私も本音で答えなきゃ...。
「私も生きたい。本当は生きたい。
辛くても貴方が居てくれればって頑張れた。
でも、もう限界だったの。死にたかったの。
仕事もプライベートも1日1日が過ぎる度に
心が、体が、死んでいくようだった。
貴方との幸せな未来を夢見ていたのに
子供が出来ない体質が、辛かった。
幸せな思い出のまま眠りにつきたかった。
街にいるカップルを夫婦を家族をみると
私には得られない幸せが、街には溢れていて
辛くて、悲しくて、耐えられなかった。
でも、私たちのために頑張ってくれてる貴方に、こんなこと言えなかった。」
最後は貴方を巻き込んで、こんな目に合わせてごめんなさい。
そう泣きながら謝る彼女を僕は抱きしめた。
「辛い思いをしてるのに、
気づけなくてごめん。
仕事に必死になり過ぎてた。
子供の事も君の体のことも
ゆっくり一緒に考えていこう。
こんな形にはなってしまったけれど
僕の全てを掛けて君を幸せにする
だから、君の全てを僕に預けてほしい」
頷く君と、交わしたキスは
少し、しょっぱかった。
2人の手には輝くお揃いの結婚指輪。
そして、近い未来には...
ラブラブなマスターと奥さん、
小さく可愛い看板娘と戯れるゴールデンレトリバーが暖かく迎えてくれる、
有名な海辺の喫茶があるのです。
僕と彼女の夢。 @saeyuzu8
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