ずるいひと(シエルちゃん/桔梗)

「まぁ! これ全部貰ったの?」


「ええ、『家族』から贈られたものですが」



バレンタイン、なんてイベントにかこつけて贈られた品々にお嬢様は目を輝かせる。

彼女は少し不安げな、伺うような表情でわたしに問いかけてきた。



「それで、本命相手からは何か貰えたのかしら?」


「……どうでしょうね?」


「えー! その言い方、ずるい」



言葉を濁すのに理由などなかった。

強いていえば、わたしの言葉でこのかわいいひとを少し困らせてやりたくなっただけだ。


だが予想に反してお嬢様はわたしの言葉を特段気にされる様子もなく、じっと顔を覗き込んできて。



「……なんでしょうか」



思わず目をそらす。それを見てお嬢様は「私の勝ち!」だなんて花のような笑顔で小さくガッツポーズ。



……なんだ、このかわいいひとは……。



「じゃあ、はいっ! これ、私から」



お嬢様はわたしの心中など察する様子もなく、綺麗に包装された小箱を握らせてくる。





そして今度は意地の悪い表情で。



「それで、本命相手からは何か貰えたのかしら?」


「! ──その言い方、ずるいですよ」



返答に困ってしまう自分にも、こんなことで喜んでしまう自分にも呆れる。





──まったく、かわいいずるいひとだ。

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空と白雪 short story ねる @nelt

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