黄昏色に赤々と(レン/トウマ)

『忌むべき赤が破滅の黒を連れてくる』


 村でよく子どもに使われていたことわざ


 空が赤く染まるような夕焼けの日は翌朝雨が降って、空が暗くなるからとくに不吉なんだと。


 まあ、所詮子供を夜遅くまで遊ばせないための迷信なんだが、忌むべき赤サンサル人破滅の黒邪神を連れてくる、なんて言い回しにはうんざりする。


 なんでもかんでもこじつけやがって! と文句のひとつでも言ってやりたいが、赤い黄昏の翌日は実際なんでだかよく雨が降るから何も言えない。


 ふと空を見上げる。

 ──ああ、今日の黄昏は赤い。


「レン、何してるの?」

「! トウマ。……お、お前が家の外に出てるなんて珍しいじゃねぇか! 明日は雨でも降るんじゃねーか!?」


 そう茶化すと「まあね」と機嫌よく俺の隣に立つ友人。

 薄茶の髪が夕日で赤く染まっている。


「綺麗な空だから思わず出てきちゃった」

「綺麗? 不吉の間違いだろ。空はこんなに赤いのに」

「レン、空がどうして赤くなるか知ってる?」

「はぇ? えっと、忌むべき赤が破滅の黒を──」

「違う。空気中に水蒸気が多いと光は散乱しやすいんだ」


 友人の口から出たのは予想の斜め上を行く小難しい単語だった。


「でも赤い光は波長が長いから目に届きやすいんだって。だから雨が降る直前の湿度が高い時間は空が鮮やかな赤色に染まるんだ」


 こんなふうに! と目をキラキラ輝かせながら語る。

「またお得意のウンチクかよ」なんて馬鹿にしても「こんなに綺麗な景色が科学で証明されてるだなんてわくわくするじゃん!」って。


「お前──」

「それに赤は好きなんだ。レン、きみの髪が綺麗だから」

「──、は……っ?」


 邪神の血を引くサンサル人の赤い髪は不吉な血の色。物心ついた時からそう忌み嫌われてきた。


 ──それを綺麗だなんてどうかしてる。


「お前、馬鹿だろ」

「何それ! 剣振り回してばっかのレンに言われたくないんだけど」

「世間知らずは怖いねぇ」

「う、それは否定できないけど……僕そんなに変なこと言った?」


 さっきの説明わかりづらかったかな、なんて難しい顔で頓珍漢なことを考え込む察しの悪い友人。思わず笑ってしまう。


「バーカ。ありがとうって意味だよ」


 余計意味わからないんだけど、なんてジト目の友人は、髪も、瞳も、頬も、黄昏色に赤々く染っていて。


 ──赤色も悪くないな、なんて柄にもなく思ってしまった。

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