圧倒的な世界設定と死生観! 「富士普楽」氏
同じ作者さまの小説を複数読んでいると、やはり「作者の個性」が見えてきます。得意分野、性癖、こだわりポイントが分かってくる。「富士普楽」氏の場合は世界観の圧倒的な練りこみが特徴的と言えるでしょう。紹介作品は上から順に古→新。
死者、インゴルヌカにて (完)
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154988041
233,747文字
死体に新たな魂が宿ってしまう「ゾンビ」と、科学技術によって発明された動く屍「ワイト」。そして死者たちの暮らす街「インゴルヌカ」。世界観が異彩を放つネクロ・パンクSF! はたして少女は死んでしまった父親に再会できるのか? 事件の真相とは?
「死体にまったく別の人格が宿ってしまう」というゾンビの設定はすごい。「ゾンビとして世界に生まれた少年」の過去エピソードが泣けます。また死者の町インゴルヌカは匂いまで描写されていて濃密。
人でなしジュイキンの心臓 (完)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881870171
190,695文字
・武侠中華パンク。神灵(カミ)が人に魂を与え、魂を欠いた者は許されざる人外として狩られる世界。傷つき死にかけた主人公に与えられた、樹械(きかい)の心臓。とある少年と2人組の任務に就く中で彼は真実に迫っていく。
植物と魂、そしてサイバーパンクの風味を混ぜ合わせた独自の世界観がとても良い。格闘と剣劇シーンも迫力満点。
北阿古霜帝国民族誌 人食いと鳥かごのザデュイラル
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890489396
・文化人類学者の主人公が人食い族の国を訪れる。そこでは貴族の中でも贄の制度があり彼らの中にも複雑な思いがあった。
文化人類学の雰囲気なので独自の用語・文化風習・儀式などが大量に登場して本格的。加えて、それらをただの「設定資料集」にしないストーリー展開とキャラ造形もすばらしい。読んでて「うわ~、こいつら異種族やなぁ。さすが人食い……」ってなります(笑)
~~~「富士普楽」氏の特徴と魅力~~~
いやー、3作とも世界観がほんとすごい。めちゃめちゃ良い。私ごときの文章力では全然紹介になってないので、ぜひぜひ直接読みに行っていただきたい。
インゴルヌカ
ジュイキンの心臓
ザデュイラル
これだけ続けて独自の世界を構築できるのはすさまじい。世界観という部分では私の知るweb小説作家さまの中で1番です。
さらに氏の場合は世界設定の中でも「死生観」がキーワードと言えるでしょう。どの作品も特に死の部分に深い設定があり物語の軸になっている。その世界で死んだ人間はどうなるのか、残された人は死者をどう扱うのか。
また「家族愛」「家族関係」も氏のキーワードと言えそう。インゴルヌカは「父親と娘」の物語であり、独自に「親なき子供」の話でもある。ジュイキンも「兄と弟」「育ての母と義理の息子」、ザデュイラルでも「家族」「一族」「幼馴染」などが人間関係の中心。3作ともを続けてみると明らかに似た雰囲気がある。
web小説だけでなく「恋愛」「男女関係」がメインとなる作品が多い中で、「家族」のほうに焦点を当てている人は珍しいような。これも氏の特徴。
そして、ここからはさらに私の独断と偏見! 個人的に氏の作品の中では最新作のザデュイラルが1番好きなんです。それは氏の作風が1番上手く表現されていると思うから。
インゴルヌカ&ジュイキンの心臓はアクションものだったんですよね。なので、どうしても戦闘シーンが物語の中心となって世界設定が背景になりがちだった。
しかし、ザデュイラルでは戦闘要素がなくストーリーのテンポはゆっくりめ。前2作よりもじっくり世界観を味わうことができる。これが好み。アクションも迫力あるけれど、やはり世界観こそが氏の真骨頂だと私は思います。
インゴルヌカ→ジェイキンでは戦闘シーンの書き込みがパワーアップ、ジュイキンはアクションバトルとしてもかなりの出来栄え。にもかかわらず、新作ではアクションを全排除。これはすごい決断、かなりの路線変更ですよ。
強みと個性を保ちつつ新たな作品構造を書いてみる。作家としての挑戦意欲と実力を感じます。
圧倒的な世界設定と高い表現力、私のとても好きな作家さまです。
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