プロローグ的な

 ピロピロピロと目覚まし時計がけたたましく鳴り、今日も朝を知らせる。

 いつものように腕を伸ばし、目覚ましを止め……られなかった。


「あれ?」


 寝ぼけているのかなとは思いつつ腕を伸ばすも、なかなか届かない。


「よし、止まったっと……うわっ!」


 いつもしないような体勢で目覚ましを止めたため、ベッドから落ちてしまった。

 幸い胸の下にクッションが落ちていたのか、あまり痛くはなかった。立ち上がろうとすると何か違和感を覚える。


 パジャマは緩いほうが好きだけどこんなに……?


 目線を下げる……クッション?(困惑)

パジャマを押し上げる2つのふくらみが僕の目に飛び込む。


「えぇぇぇーー⁈⁈⁈クッション!(迫真)」


 思ったより甲高い声が出た。



$$$




 一度落ち着いて整理してみよう。

 僕の名前は黒岩圭くろいわけい、17歳の高校2年生。バレーボール部に所属。ゲーム、アニメ、ファンタジー小説が好きで我がことながら陰キャ道を突き進んでいる自覚はある。


 ちなみに、いま僕の部屋の扉を開けた体勢のまま口をあんぐり開けてフリーズしていらっしゃるのは僕の母上にございます。

 我が家の番犬チャンプ君は今日もベッドに上ってきておられる。妹もいるがどうせまだ寝ているし、父は単身赴任中なので説明はいらんであろう。


 ……口調は気にするな。ちょっとテンションが上がった時のギャグだ。落ち着くために必要だっただけだから。



「あの、お母さん。なんだか夢から覚めないんだけど、どうしたらいい?」


 僕が声をかけると、ようやく母のフリーズが解ける。


「誰なの?って言いたいけど……もしかして圭?」


「そのつもりだけど、なんだか違和感がすごくてね。こんな夢なら早く冷めてほしいんだへほっへほっほひぃや!」

喋っている最中にもかかわらず頬をむにむにと引っ張られる。

「この触り心地は作りものじゃない……本物?」


「ちょっと!いきなり頬っぺたつねるのやめてよ。びっくりするじゃん。」


「わぁ、見た目全然違うのにちゃんと圭だ。でも全然違う。」


 いったいこの人は何を言っているんだ。できれば会話をしてほしい。


「そんなに睨まなくても、夢じゃないってわかったでしょ。一応もう一度聞いておくけど、あなたは圭なのね?」


「そうだよ、黒岩圭17歳独身ですよ。」


 母は腕を組みながらこちらをずっと見て何やら考えていたようだが、一度大きくうなずくと部屋を出て行ってしまった。



「……ええっ!放置⁈それ酷くない⁈」


「飛鳥が学校行った後でね。休みの連絡は入れておくからそれまで大人しくしてなさいよー。」


 そんな声が聞こえた後、キッチンからカチャカチャと料理をする音が聞こえてきた。すぐには終わらなさそうなのでとりあえず二度寝をすることにした。

 寝て起きたら戻っていればいいなとは思うが、さすがに楽観的過ぎるか。目をつむればすぐに眠気が襲ってくる。


 うーん、二度寝って最高。



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 しばらくして母に起こされた。

 まぁこのよくわからない状況が夢でない事は確かなんだろう。布団の中でパンツの中を確認したとき一度発狂したくなったけど、チャンプがいつも通り側に居てくれるので何とか正気を保っていられる。


「それで?体はどうなの?」


なんとなく腕を組むと自然と目線は下がる。


「胸がある。」


何故か母はジト目だ。


「それは見ればわかる。今聞いてるのは体調の方。」


「あーそっち?風邪は治ってると思うよ、熱っぽさはない。」


「それは良かった。他には?」


「なんというかね、体が動かしにくい。腕短いし。うーん、あっそうだ、自分の体じゃないみたい。」


何故か母がジト目だ。


「……そう、体調に問題はなし……息子が娘になったと。

 もういいわ、考えるのも面倒だしとりあえず朝ごはん食べようか。」


 と言って、またさっさと行ってしまう。


 ふう、遂に部屋から出ないといけなくなったか。よし、テンション上げていこう。

 黒岩圭の新たなる伝説が今っ!


「うわぁぁぁっ!」


 ベッドから起き上がり歩き出そうとしたところで、バタッと大きな音を立てて転んでしまった。

 幸いクッション(迫真)が落ちry


 まぁ何というか、衝撃を受けたんだよ。

 それにしても今一瞬であっても歩くという基本的な動作が、出来る気がしなかった。これやばくない?自分の体じゃないみたいだよ。


 大きな音に母が飛んできて「何があった?」と聞いてくる。


 床でうつぶせになったまま答える。

「申し訳ないけど手伝ってもらえません?歩けなくなっちゃった。」



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 この年になって親に背負われるなんて貴重な体験だなぁ(感想)


 ふっ、つまらない現実逃避だ。

 背負われている振動でクッション(迫真)の存在も変わらず感じるし、手の小ささなどにも気が付かされ、もうどうすれば良いのかわからない。


 ぼーっとしていると優しく椅子に座らされていた。完全に介護されているようだが自分ではどうしようもない。こうなりゃやけだな。


「それで、ご飯は食べれる?」


「ハラペコなんで是非とも食べさせて欲しいですねー。」


 ご飯と卵焼きを出してもらったので食べようとしたが箸が持てない。スプーンやフォークを使ってみたが指に力が入らず使いづらいし、持てたとしても今度は狙ったところに手が向けられない。


 結局、呆れた母に介護状態にされたのだがこれはまるで……


「餌付けされてるみたいでなんか嫌だ。」


「そうは言っても仕方ないでしょ。こうしなきゃ食べられないんだから。

 嫌なら自分でやって。」


 それを言われては何も言い返せない。歩くこともできず、箸より重いものは持てない。むしろ普通に喋れていることが奇跡かもしれない。


 練習、この体を動かす練習が必要だ。

 必要以上に米を噛み締めながら僕は覚悟を決めた。

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少し刺激的な日常 MASK⁉︎ @castlebreak

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