第10話 メリークリスマス
月日というのは本当に流れるようだ。勢いが付けば一気で、子どもたちはそれぞれ結婚して私達の元を離れた。その間にも「エプロンを」という話はあったが、「子供が成長しきって」と断ってきた。
しかしそれをずっと待ってくれていた人がいた。それは亡くなった大家さん、
の娘さんの娘。彼女は私と同年代で、母親から受け継いだ雑貨店を上手く切り盛りして、手芸教室まで開くようになっていた。私は「日用雑貨を縫う」担当となり、のんびりと余生を過ごしている。
最初は抵抗があった「先生」と呼ばれることも、今では受け入れることにしている。
「私の所は初歩的なクラスですから、その先に行きたい方は行かれて下さいね」
と生徒さんたちには言う。のんびりとした、あまり緊張感のない教室だ。だから居心地が良いと言ってくれる人が多い。時々男性も入って来るが、今は女性だけ。それでさほどトラブルが無いのは奇跡的だと言われている。
「今年の冬は暖かいですね」
「本当に、一部では大雪になっているみたいだけれど」
とミシンの音とおしゃべりが聞こえる中、一人の生徒さんが嫌な顔をして部屋に入って来た。かなり若い、私としては「ちょっと真面目過ぎるかな」と思う人だ。
「どうしたんですか、何かあったんですか? 」
先生として、言わなければいけないことだった。
「先生、先生、これは訴えた方が良いと思います、訴えるというのは大袈裟かもしれませんが、掲載をやめてもらいましょう」
「どうしたの」「何があったの? 」
皆が集まって来た。
「これです! 」
彼女はスマホの画面を見せた。そこには以前私の作ったエプロンとそっくりなものが載っていた。素材も似たものを使っているようだった。
「ひどいと思いません? 「エッチなエプロン」で出て来るんです!! ポケットの位置が最高とか、彼女に最高の肌触りをとか!! 」
ザワザワとしている中、私の心が一番ビクビクしていた。しかし先生という手前、真実は絶対に語れない。生き方が型紙のように似通った形になったのかもしれないが、今の時期は、最高の救いの言葉がある。
「まあまあ、落ち着いて、今日は特別な日なんですからね。
とにかく皆さん
メリークリスマス!!」
「メリークリスマス」
私のエプロンはやっと正常な位置に戻ったようだ。
エプロン💝マニア @nakamichiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます