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 "ったく、何で俺たちがアメリカの尻ぬぐいをせにゃならんのだ……"


 87式自走高射機関砲(87AW)、通称「スカイシューター」96-5112号車の砲手席で、小林史郎一等陸曹は、本日何度となく心の中で繰り返した愚痴を今一度脳裏に蘇らせる。


 もっとも、その疑問の答えは彼の中でも既に出ていた。米軍は地対空ミサイルだけで十分と考え、87AWのような対空自走砲は作っていないのだ。だから最後の砦として、自衛隊の部隊の中で唯一、陸自高射教導隊の彼らが今回出動を要請されたのだった。全く、迷惑きわまりない話だ。小林一曹は心底米軍を呪った。


 87AWは、74式戦車の砲塔の代わりにスイスのエリコン社製35ミリ対空機関砲KDAを2門載せたような形をしている。彼以外の乗員は、高射教導隊第3高射中隊長であり車長でもある天田隼人二尉と、操縦手の甲斐隆司三曹の2名だった。「もんじゅ」周辺には5112号車を含め3台の87AWが配備されていた。


「しかし、ヤツは何でわざわざこんな明るい時間に来るのかな。ステルスなんだから夜来ればこっちはどうしようもねえだろ」


 そう言って、天田二尉が隣に並んでいる彼を振り返る。


「そりゃ向こうだって夜は飛びにくいからですよ」小林一曹は応える。「昼なら太陽とか地形とかを見て地文ちもん航法で飛べますが、夜はGPSや電波標識に頼るしかない。だけどGPSはジャミングできるし電波標識は止められる。現に今そうなってるでしょ?」


「いや、夜でも暗視装置スターライト・スコープ使えば明るく見えるだろ?」


「スターライト・スコープは高速で動くものは全然見えませんよ。飛行機の目として使うには厳しいと思います」


「……なるほど。さすが防大出は違うね」


「東工大の隊長に言われたくないです」


「けっ。俺はどうせ中退だからな……おっと」


 天田二尉は右手で右耳のヘッドフォンを押さえる。何か通信が入ったようだ。


「……海兵隊マリーンズが要撃失敗したそうだ。第一の壁が突破されたな」


「!」


 車内に一気に緊張がみなぎる。


「さあ、次は第二の壁だ」


 天井のハッチを開け、天田二尉と小林一曹は立ち上がり、若狭湾上空を見上げる。


「……いました! 11時の方向!」視力2.0オーバーの小林一曹が叫び、目標を指さす。


「!」天田二尉が双眼鏡を両目の前に構え、小林一曹が指さす方向にそれを向ける。


「もんじゅ」手前の海岸線にずらりと並んでいる、第二の壁……米軍の中距離地対空ミサイル、ホークが次々に頭をもたげ、轟音と共に発射されていく。


「当たるかな?」と、天田二尉。


「どうでしょうね」小林一曹は首をかしげる。「そもそもレーダーでロックオンできない相手ですからね。それでもあれだけ大量に同時に撃てば、当たるかもしれませんが……」


 しかし、20秒後。


「……信じられん」


 呆然とした面持ちで、天田二尉が双眼鏡を顔から下ろす。小林一曹も全く同感だった。


 X-47Bは、雨あられと降り注ぐホークの大群を、凄まじい超絶機動で全てかわしきったのだ。


 "まるで板○さん作画のアニメのようだ……"


 小林一曹はある種の感慨に囚われていた。だが、次の天田二尉の言葉で、彼は現実に引き戻される。


「これで第二の壁も破られたな……」

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