5

「射撃準備!」天田二尉が車長席に滑り込む。


「了解!」ハッチを閉めてから、小林一曹も自分の席に収まる。砲塔を回して正面を「もんじゅ」に向け、二つの機関砲を最大仰角にまで持ち上げる。対空レーダーは役に立たない。光学照準システムを作動。正面のCRTに照準カメラからの映像が表示される。


「小林、ヤツはどこから来ると思う?」無線を通じて他の車両にも指示を出してから、天田二尉が言う。


「直上からですね」間髪を入れず小林一曹が応える。「ギリギリまで爆弾抱えたまま突っ込んで来ると思いますよ。そのまま爆弾を投下せずカミカゼをやるかもしれない」


「俺もそう思う。おそらくヤツは真上はこっちの死角だと思ってるだろうからな。だが……ナナヨンの血を引くこいつの真価、見せてやろうじゃねえか!」


 天田二尉はニヤリと不敵に笑う。


「甲斐、後傾姿勢だ」


「了解!」


 甲斐三曹は車体のハイドロニューマチックサスペンションを操作し、前を上げて後ろを下げる姿勢にする。これで、KDA機関砲の最大仰角80度よりさらに上に銃口を向けることができる。74式戦車と共通の車体を持つ87AWならではの機能だった。


 しかし、小林一曹には目標を仕留める自信があまりなかった。あんな凄まじい機動をするような敵を、本当に撃墜できるのか。


 それでも、彼の頭の中には、勝利の可能性を示唆する一つの仮説があった。もしそれが正しければ……あるいは……


「……来たぞ!」


 小林一曹の思考は天田二尉の声によって中断される。彼らの予想通り、X-47Bは「もんじゅ」の真上から垂直降下してきた。レーザー測遠機が作動。15,000ft。最大射高より上だが、まずは弾幕を張らなくては。


「撃てぇ!」


 天田二尉の声と共に発射音が激しく轟き、三つの87AWから同時に35ミリ砲弾の火線が打ち上がる。だが、X-47Bは前後左右にランダムに動き、それらを巧みにかわしていく。


 "くそ……ダメか!"


 絶望しつつも、小林一曹は引き金を引き続ける。目標高度、10,000ft。


 しかし。


 "あ、あれ?"


 心なしかX-47Bの加速が落ちたように、小林一曹には見えた。動きも少し鈍くなったような……


 "……そうか! やっぱり!"


 自分の仮説が正しかったことを、小林一曹は直感する。目標高度が5,000ftを切る。彼はX-47Bの未来位置に向かって、砲身も焼き切れよとばかりに35ミリ弾を続けざまに叩き込む。


 そして、一瞬後。


 彼らの車両は、爆発の炎に包まれた。


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