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 ヨハンセン中尉の僚機、Profane 02のパイロット、マイケル・「バズ」・シュウインガー少尉の焦りは頂点に達していた。既に彼は全てのミサイルを撃ち尽くしていたが、その中で目標ターゲットを捉えたものは一つもなかった。目標はレーダーホーミングのAMRAAMはもとより赤外線ホーミングのサイドワインダーすら、まるであざ笑うかのように易々と回避していた。ステルス機であるX-47Bは、赤外線を含むあらゆる電磁放射が弱められているのだ。


 結局、最後に残ったのは20ミリバルカン砲だった。しかし、X-47Bは単発エンジンなので双発のホーネットに比べると速度は遅い。彼は操縦桿とラダー、スロットルを駆使してX-47Bに追いすがり、ガン攻撃可能な距離にそれを捉える。


 その瞬間だった。


「!」


 突然、目の前からX-47Bが消えたのだ。


 "そんな、バカな!"


 少尉は左右を見渡す。X-47Bの姿はどこにも見えない。上を見上げても同じだった。呆然とした面持ちで彼は呟く。


「What the hell's goin' on......?(一体何が起きてるんだ……?)」


 ---


 "……やりやがった!"


 それを見るやいなや、ヨハンセン中尉は機体を急降下ダイブに入れていた。GIB後席乗員が悲鳴を上げるが、気にしている場合ではない。


 X-47Bは、シュウインガー少尉の目の前でスプリットS機動(逆宙返り。Sの字の下半分のような軌跡を描くためそう呼ばれる)をやったのだ。それも背面に入ることなく。有人機ではほぼ不可能な機動だった。


「"Buzz", I got it. Cover me(バズ、俺がやる。援護しろ)」


「Copy that, "Rick"(了解、リック)」


 シュウインガー少尉の応答を聞きながら、中尉は高度差を速度に変え、X-47Bめがけて自機をまっしぐらに加速させる。高度が一気に下がったため、ヤツもこれ以上スプリットSはできない。このまま一撃離脱戦法ヒット・アンド・アウェイでヤツを撃墜する。中尉はHUDにX-47Bを捉える。


 その時。


 彼の目の前で、X-47Bが右に横転ロールを打つ。右旋回で回避するつもりか。そう判断した中尉は、追随しようと反射的に自機も右にロールさせる。


 しかし、次の瞬間。


 彼の視界から、X-47Bが忽然と姿を消す。


 "……しまった!"


 慌てて中尉は左に機体をロールさせるが、遅かった。左に急旋回● ブレイクしたX-47Bは、既に遥か彼方に遠ざかっていた。


 "やられた……垂直方向だけじゃなく、水平方向のマイナスG機動マニューバにも警戒しておくべきだった……"


 だが、こちらのエンジン推力はヤツの2倍以上だ。中尉は気を取り直して左にブレイクする。しかし……


 突然、X-47Bが白い煙を吐いたか、と思うと、瞬く間に小さくなっていく。


 "なんだと? まさか、ロケットブースターを内蔵しているのか?"


 それならばサイドワインダーでロックオンできる。中尉は兵装システムをサイドワインダーに切り替える。しかし、X-47Bは既にサイドワインダーの有効な射程距離から離れていた。それでも「バズ」の位置からならまだ間に合う。シュウインガー少尉に指示を出そうとして、彼は残酷な事実に気づく。


「バズ」は既に、全てのミサイルを撃ち尽くしていたのだった……


 "なんてこった……ヤツはまさしくエイリアンだ。人間の常識が全く通用しない……"


 ほぞを噛む思いで、ヨハンセン中尉は宣言する。


「Profane 01 FLT, missed interception(プロフェーン01フライト、迎撃失敗)」


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