4.カタラーナとラミス。







「へぇ……。ミミは、隣の街からやってきたんだね」

「はいです。えっと、今からちょうど一年前くらいですね」


 川にかかる橋の上で、僕とミミはそんな世間話を交わしていた。

 なんでも彼女は、自分を助けてくれた恩人を頼りにして、ここへたどり着いたとか。しかしその恩人も亡くなってしまい、今では幼いながらも働いているそうだった。

 一連の話を聞く限り、なかなかの苦労人、といった感じがする。

 年齢も孤児院の子供たちと大差ないにかかわらず、立派なものだと思った。


「お仕事は、なにをしているの?」

「え、あの……それは、秘密なのです」


 しかし、深く訊こうとすると口を噤んでしまう。

 何だろうか。ミミの言葉を信用しないわけではないが、なにかを隠している様子でもあった。とりわけ、僕の名前を聞いた時は目を丸くしてたのだ。

 だが、話したくないことを掘り下げるのも悪い気がした。

 だから僕は少女に、別の話題を振ろうと――。


「ところで、最近この辺りで――」

「見つけたぜ、カタラーナ。こんなところにいやがったか」

「…………っ! ラ、ラミス?」


 そう口を開いた時だった。

 一人の柄の悪い青年が、彼女にそう声をかけてきたのは。

 カタラーナ――というのは、ミミの名前なのだろうか。そして彼女もまた、その青年のことをラミスと呼んだ。僕の存在に気付いたラミスは、ニヤリと笑う。


「おやおや、これは面白いことになったな。カタラーナに、その『前任者』ときたか。おっと、せっかくだし自己紹介をしておくとするか……」


 そして、そう言ってから。

 わざとらしく、ラミスは頭を下げて名乗るのだった。



「俺様の名前は、アゼンタ・ティ・ラミス。そこのカタラーナの雇い主だ」



 なにか、含みを持った笑いとともに。

 僕はそれに対して、決していい気持ちを持つことはなかった。


 

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基礎の収納魔法しか使えずクビになった少年、実は唯一無二の『境界線魔法』の使い手だった。~要らないものを消せるのって、普通じゃないんですか?~ あざね @sennami0406

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