第4話
市場で適当に買ってきた食料を冷蔵庫に入れ、一部を口に放り込む。咀嚼しながら意識を頭上へ伸ばしていく。知覚範囲が目的の場所を捕捉し、転移する。周囲に視線を回せばそこは先ほどまでいた小屋の中とは全く違う景色だ。生命の気配のない荒野がひたすらに広がっている。その中に恒星のような発光体を見つける。接近するとその発光体は人型に姿を変えてこちらに引き寄せられてくる。
「セリオット、来てくれた」
「久しぶり。」
「そうだ、何年振りだろう。セリオットとは時の流れが違うのだからな。」
やってきたのは偶発的に発見した天体だ。同じ宇宙に存在しない特殊な場所だ。
「この星も随分と様変わりしてしまったね、前回来たときはもっと生命と文明に溢れていたと思ったけど。」
「そう、セリオットのところでは数か月かしら、こちらは貴方の感覚で6000年たっているは。」
「そんなに、それにしても、今は君だけかい?街や森は?」
この星には以前、確かに生命があふれ文明が栄えていた。今僕が暮らす惑星と同じレベルの物がだ。それが消え去り地平線まで荒野が広がっている。
「うん、あの子たちね消しちゃった。」
「おや、それはまたどうして?今回は生態もバランスが良くて、文化的にも温厚だと言っていたのに。」
目の前の発光体、彼女は一種の神に等しい存在だ影響の範囲は今いる惑星のある太陽系内に限られるが、そこで独自の物理法則や生態系を生み出しそれらを管理している。
本来は単細胞生物から発展して生まれてくるような大型の生物を最初からその姿で生み出し、その繁栄と衰退を観察している。
今回も知性的生物による文明の繁栄を陰ながら支え見守っていた筈だ。
「今回は指導者的立場の少数の上位種を二種類対立させるかたちで生み出し多数派の下位種がその代理戦争に使われる形で、それぞれが盛衰を繰り返し安定していたんだろう。」
「そうなの。それで上手く交互に栄えるように調整していたの。なのに」
そこで彼女は口ごもる。
「何があったんだい?」
「うん、話す前に確認したいのだけど、セリオット、貴方は私の味方よね?」
「質問の意味がわからないな?以前から友人で互いに間違いが有れば指摘し合う事もある存在だと、そんな話をした記憶があるよ。」
「そうよね?私が間違えれば立ち塞がってくれる。友達よね。」
何か噛み締めるように彼女が口にする。どこか喜色に滲んでいる。
「あの子達ってばひどいのよ。この星の種族間の闘争を私が支配して行っている黒幕として皆で結託して私をこの星から追い出そうとしたの。」
「あぁ、確かに住人達から見ればそう見えるかもしれないな。」
「確かに彼を戦わせて楽しんではいたわよ。でもそれはそうする事で進歩する文明と破壊されて破壊された文明圏の生態も調整も含めてのもので、最初からそうやって作ったんだし。」
「君の視点だと問題ですら無いね」
「それだけなら良かったの。あの子達の代表が私に対面した時に言ってきたの。お前はこの宇宙で一人きり。友達も居ない孤独なお前に仲間との絆や愛は解りっこないって。」
彼女の声が今度は悲しげに弱まる。
「セリオットは友達よね。私は独りぼっちじゃないし、絆とか、その・・・愛とか」
「勿論だよ。そうかそれで不安になって僕を呼んだのか。その気持ちこそが代表とやらが君に解る筈がないと言ったものそのものなのに。」
実際、彼女は僕が見つけるまでこうした会話をするような存在では無かったな。
何を隠そう僕らの種族の始祖は彼女が生み出した種族が惑星外へ進出したものが始まりである。それ故に能力の影響を探している所で遭遇出来のだ。
「そう。それでねこんなこと始めてなのだけど我を忘れるというのかしら。とても悲しくて気が付いたら全部消しちゃって。そしたら凄くセリオットに会いたくて。もし貴方が居なかったら、もう寿命を迎えていて返事が無かったら。本当は居なかったら。そんな風に考えてしまって。」
「そうか、寂しくなってしまったんだね。」
彼女の感情は幼く不安定な面がある。知識や経験は多くとも自我として確立されてたのは僕との遭遇後であり、並び立つ存在は現在僕だけだ。さもありなん。
「寂しい、これが寂しいという感覚なのね。とても不安だわ。もし私の知らない内に貴方が居なくなって、だれも返事をしてくれなければ、あの子達の言うとおり私は独りぼっちだわ。セリオットが居たことも幻と思うかも知れない。長い時の中に貴方の存在を今の私は他の誰かに証明出来ないの。」
人形の光が僕の腕を取る。そこに感触がある。以前は質量の無い、認識しやすく視覚情報を持たせた存在だったのに。
「セリオットは昔に私が生み出して外にだした子達なのよね。なら貴方の種族の身体を作るのは簡単よ。」
そう言いながら光は消えてそこに肉体を持つ存在が現れる。僕と同族の女性体だ。
「自己保存能力に長ける個体は生殖能力を減衰させるのは道理よ。ライバルを増やす必要は無いもの。でも私なら」
「次の星に行くときは一緒に行こうね。」
彼女の言葉を最後まで言わせる無い。恐らく僕との間に次の種族の始祖となる個体を生殖により発生させるつもりだろう。
それは少々不確定要素が強く避けたい。
彼女の存在事態、僕として隠して置きたいのだ。過去の同族の過ちを繰り返す様な強い力を求める同族が彼女を知れば何をするかわからない。特に今の彼女は危険だ。
次の惑星へのアバターの同行は彼女の望みとは違ったが、意に反するものでは無いようで、それで満足してくれた。
次の仕事は少し骨が折れるやもしれない。
イージープラネット @mAcchang
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