第3話
闇市で真っ先に声を変えてきたのは、不自然に綺麗な白衣をまとった色眼鏡の男だ。無造作に伸びた白い長髪と白衣のアンバランス差が違和感を覚えさせる怪しい人物だ。
「待っておったぞ。ささこっちじゃ。」
有無を言わせず僕の腕をとり引っ張って行く。そのまま闇市の中の何処かの小部屋に連れ込まれる。
「これじゃ、今回も期待しておるぞ?」
「あまり文明レベル離れたものは作りませんよ?」
「わかっておる。そのつもりで調整しておるわい」
この老人は明け透けにいうならこの星を攻撃している異星人である。この銀河ではボノボイトと呼ばれる種族で個体名はゴリキ。この惑星より遥かに進んだ技術を持つ星の技術者である。
「本当に宇宙は広い。美しい青き星を見つけて、その星を汚す原住民達を懲らしめようと思えば、別の銀河から防衛者がくるわ、我が星をより進んだ文明の異星人が紛れて暮らしておるわ。我が身の小ささを感じさせるな。」
「そうですか。それで今回のこいつは何に使うのですか?」
ゴリキが見せてきた機械の最適化改良と、未完成な部分をこちらで組み上げていく。
「おお、そこのバイパス何をしたのかね?また念動力で私にも計測できない循環を?流石は上位種族じゃのう。」
「この技術は大戦以前にあなたの祖先が開発したものですよ?」
「なんと?それは誠かね。」
「だから使ってるんですって。」
ゴリキの表情が曇る。
「母星の学会に除け者にされ外にでたつもりじゃが、戻って大戦以前の技術について改めて研究するのも良いかもしれんな。」
「まぁ、貴方の活動は僕の目的にも一役買っているので、此方の用が済むまでは協力しますよ。」
ゴリキが作っているのは環境再生装置だ。この星の住民が人工的に変化させてしまった生態系を人の手が入る前の状態に戻す装置。住人目線で表現するならゴミから作られた破壊兵器だ。それを人口密集地は開発地区で使う。それをこの星の住民が破壊する。破壊することで素材となった汚染物質は無害化され、大地は浄化される。ゴリキはこの星の人々に環境問題を訴えかけているのだ。
「これでどうです?」
完成した機能を起動してみる。
「ほう、流石じゃ。後はこちらで仕上げておこう。」
「出すときは連絡下さいよ、僕も現場に行きますから。」
「わかっとるわい、アヤツとの戦闘記録とエネルギーの回収じゃろ。」
「それがこの星系での仕事ですから。」
「個人での活動規模が大きすぎて何度聞いても呆れる話じゃ。そんな事に少しは手伝いが出来てるのかと思えば悪くないがな。」
「少しと言わず結構なものですよ。」
ゴリキの活動には常に妨害が入る。
特殊な戦闘服に身を包んだ正体不明の人物が現れ、ゴリキの作った破壊兵器を無力化していくのだ。この星の子供向け娯楽の変身ヒーローというものを体現しているその人物の戦闘力の源こそが僕の回収対象である。彼か彼女か知らないし、知ろうとも思わない。便宜上彼の装着しているスーツは過去の遺物を修理し不完全ながら機能を復元したもので、行使する超能力は僕たちの持つものと同種である。推定ランクは2。普段はランク1相当の能力だが感情の高まりや危機的状況で時折ランク2相当の能力を発揮する。使いこなせていない未熟なものにありがちな事だ。スーツと合わせて3に届くか怪しいところだ。既に何度か彼の体組織のサンプルは回収しており、僕らの種族同様体の成長と共に能力が衰えることと、最近の酷使により衰退が早まっているのを確認している。遺伝性もなく、このままゴリキの活動に協力して能力を使わせていけば目的は達せられる。最後に能力が無くなったところでスーツを破壊するなり回収してやれば終了だ。
もし能力に遺伝性があれば細胞レベルで体を作り替えるか、指定星域の保護区に移送する必要が出てきて面倒くさい。もしそれらに同意しないなら繁殖する前に活動を停止させる必要がでてくる。要は殺せということだ。それも後味が悪い。悪用してこの星や国家でいう犯罪者となっているのなら躊躇しないししたこともあるが、生憎と今回の彼は災害や事故現場での人助けにのみ能力を使っており、ゴリキの活動が始まってからはそちらに注力している。
「それにしても、奴め最近戦い慣れてきた感じがするの。」
「もう半年になりますか、貴方と彼が戦い初めて。」
「そうじゃな、最初は攻撃に躊躇いがあったようじゃが、最近はワシの作品たちを遠慮なく殴りよる。」
「今度は人工知能でも載せて会話でもさせましょうか?この星の環境汚染が私を生んだ。何故私を生んだ人間が私を殺すのだ?私も生きることを望まれたい、なんて呼び掛けてみれば。」
「そりゃあ、この前にお主の母国で放送されとった奴じゃろうが。」
「あ、知ってました?」
「楽しんでおるの」
呆れを含んだゴリキの声に笑みを返す。
「それならアレじゃ、まだ設計途中じゃが、最初は連中と同じ人の姿で、徐々に怪物に変異していく奴を企画しとるよ。」
「そんなの考えてるんですか、ゴリキさんも楽しんでるじゃないですか。」
「これは実行するときはスーツのアヤツ本人か身近な人物に保護させてしばらく置いて情が移るようにしたいと思ってるよ。」
「後で設計図見せてくださいね!それから彼の個人特定しときますよ。」
楽しい計画を話しているうちに時間は過ぎ、その日は分かれてゴミ置き場に向かう。少し不燃物で使える部品を見繕っているうちに回収車がやってきたので乗せてもらい、廃棄場と付近の小屋に戻る。後は小屋で過ごして一日が終わる。
その繰り返しがここ半年ほどの僕の仕事ぶりである。
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