第2話

小屋から出れば玄関周りだけは砂利撒いているが、これ以外の場所は膝程の高さの草が生い茂っている。この草むらに人が通って出来た獣道が延びている。片方は下町へ片方は町から離れる方へ。朝日を浴びながら町から離れる道を行く。


「昼には暑くなりそうだなぁ。」


超能力を使えば、気温など気になるものでも無い。活火山の火口だろうが、永久凍土だろうが軽装に裸足で踏破出来る。しかし、そこまですることもない。自然の環境変化を楽しんでいる。


暫く歩くと獣道は舗装された道路へ合流する。舗装といっても車が通る部分だけでガードレールはおろか、歩行用のラインすら引かれていない。その道まで至ると、自然の物ではない異臭が漂いだす。

臭いのする方へ向くと、黒い山がいくつか見える。近寄ればそれが無造作に積まれたゴミの山であることがわかる。

ここは街のゴミが捨てられている廃棄場だ。都市部の発展の割にはこうした部分のインフラの整備が追い付かず、こうして全てを離れた場所に積み上げているのだ。


ゴミの山に近づくと、不意に藪から何かが飛び出してきた。


「マーセ!お早う!!」

「ああ、お早うヤル。元気そうで何よりだ。」

「マーセこそ、最近顔を見せないから国へ帰ったんじゃないかってチビ達が不安がってだぞ。」

「そうか、それは悪いことをしたなぁ。もし帰るときが来ても黙って行くことはないかな。まだまだ帰れそうもないし。」

「そうか!それは、あれ?これは喜んでも良いのか?」

「喜べ喜べ。」


歩きながら言葉をかわす。そして、ゴミの山の中に工具箱と作業台のあるところで足を止める。底には未分別のゴミ山の中で、金属製と思われるものが集められている。


「お、僕が来ない間に結構集めたね。」

「みんな頑張ったんだぜ。」

「それじゃあ始めるか」


そう言って工具箱を開けて道具を取り出す。

僕が何をしているかと言うと、ゴミの中から使えるものを集めて修理したり、時に新しく作り直したりしている。そうして修理したもの何かを下町で売り、表面上生計をたてている。

まぁ、僕達種族は食事も呼吸も睡眠も不要なのだが、不要としないは違うものだ。

作業を始めるとゴミ山からから幾つかこちらをうかがう視線を感じる。

このゴミ捨て場に住まう孤児達だ。生ゴミとと共に運ばれてきて、生き長らえた強い子ども達だ。最年長のヤルがまとめている。ヤルが今年で13歳だと言う。その下はみんな10歳に満たない子ども達ばかりだ。数年前に国内で政権交代が起きて、新政権が悪かったらしく、数年で元の政権に戻ったがその間に国民を蔑ろにして自身に利益を集めた結果、その世代の子どもが増えたという。現政権も彼を見て見ぬふりだ。


僕はというと、この国とは別のもう少し技術の進んだ国の学生として身分を得ている。長期休みに海外へボランティアに出て、そのまま帰国していない。一応、学生の身であるうちは二国の国交が友好な為に滞在が許可されている。学生は八年まで保持されるので数年はこうした不安定な立場を保持出来る。

惑星の原住民に紛れて暮らすのに好都合だ。現地で犯罪等の問題を起こして目立たなければ数年で、母国に帰るという名目で雲隠れ。他の国で同様にして新な学生となるだけだ。


「ヤル、これを。」


上着のポケットから合成樹脂の小瓶を取り出し渡す。中には小さなタブレットがジャラジャラと音をたてている。

ヤルが蓋をあけると柑橘類の香りが漂う。

健康志向の栄養が含まれたお菓子だ。僕の書類上の母国製だ。


「マーセ、ありがとう。」

「おう。皆でわけてな。」


一粒口にすくんだヤルは身を輝かせて、こちらを伺う視線の方向へ駆け出す。その背中を見送りながら、目の前に積まれた故障品に目を向ける。

その気になって超能力を駆使すれば、一晩で再生可能エネルギーのみで動く宇宙船も作れるが、そこまでの必要は無い。小形の電化製品を適当に修理するだけだ。

材料がある時は、苦労したふりをして太陽光発電のパネルを作ったりもした。今の僕の家に設置している。

この惑星の最先端の技術でさえ僕には稚拙なもので、感覚として、木の棒を削り握りをつけるのと大差無い感覚だ。適当に修理するなり作り替えるなりしていく。あまりやり過ぎると、オーバーテクノロジーになるがその辺りの判断も難しくない。古い娯楽小説では難しそうに描かれる事もあるが、やってみるとそんな事も無いものだ。


のんびり作業を続けて、日が高くなった頃、一台のトラックがゴミ山に廃棄物を下ろしに来た。荷を下ろすと運転手は車から降りて僕の方へとやってくる。


「やってるかい、兄ちゃん。」

「やってるよ~、ついでに頼まれた物も作っといたよ。」

「あんがとよ娘も喜ぶぜ」

「はいよ。それじゃ今日も宜しく。」


直した機械をトラックに積み込みそのまま荷台に乗り込む。遠目にこちらを見ているヤル達に手を振っているとトラックが走り出す。向かう先は街の闇市だ。開発しているエリアから外れたり、頓挫した場所はこうした市がたち、出所のわからない物でも捌けるのだ。直した機械を売ったり、修理の依頼を受けることもある。


「じゃあまたな。夕方にはここのゴミも取りに来るからその時にな。」

「ありがとー。」


荷を下ろし、トラックと別れる。夕方にはこの闇市のゴミ置き場に回収に来るので、それに乗せてもらう。それまでが商売の時間だ。

今日直してきたのは、電子辞書だ。この国の国語時点と三か国後の翻訳辞書が入っている。同じ性能の正規品の半額で売っていると、早々に売れてしまう。貧乏だが、子どもに学を与えたいと思う、良い親は何処にでもいる。先程のトラックの運転手もそうだよ。高等学校に上げたいと、以前から計算機等を僕から買って言った。

娘が音楽の携帯再生機を欲しがっているということだったので、廃棄品が有れば安く直して上げると言ったら持ってきた。それを切っ掛けに、足として使っている。


持ってきた商品の数は11台。僕が直接売らなくても転売してくれる者がいるのでそう言った人にまとめて渡して代金を貰う。

その後は好きに過ごすが、大概は誰かに仕事を頼まれる。電光看板の修理等、この場で出来る仕事が沢山あるのだ。

数歩も歩かぬうちに早速見知った顔から声をかけられた。

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