2 あなたがそばにいてくれたから、私は今まで、道に迷わずに、生きていくことができたんです。
あなたがそばにいてくれたから、私は今まで、道に迷わずに、生きていくことができたんです。
伊予と卯月は、そのまま一緒に桃山高校まで登校することにした。
「でも、偶然だね。もし学校であったら、伊予ちゃんになんて声をかけようかと思って、ちょっとどきどきしてたんだよ。同じ高校だよって、母さんから聞いてたからさ」
「そうなんだ」伊予は言う。
伊予のお母さんと卯月のお母さんは大の親友同士だった。だからそういうやりとりもしているのだろう。そして伊予の母親は、卯月が高校生になって、この街にまた引越しをして戻ってくるということを、もちろん知っていてい、伊予に秘密にしていたのだ。
伊予はなんだか最近、ずっと楽しそうにしていたお母さんの秘密が、今、ようやくわかった気がしてその綺麗な顔を小さくしかめた。(完全にしてやられた。たぶん、お母さんは成長した卯月のことを写真かなにかで見ていたのだろうと伊予は思った)
それにしても、……見れば見るほど卯月はかっこいい。
これほどかっこよくなるとは、(元から整った顔をしてはいけど、泣き虫だったし、背も私よりも小さかったのに、あの卯月が……)伊予はまるで思ってもみなかった。(というか、伊予は卯月のことを、さっきまでずっと忘れていた)
「伊予ちゃん。昔は勝気ですごく頼れるお姉さんみたいだったのに、今はちゃんと女子高生してるんだね」桃山高校の制服姿の伊予を見て、卯月は言う。
それはどういう意味だ? と伊予は思う。
昔の私は、女の子をしていなかったということか?
「でも、すぐに伊予ちゃんだってわかったよ。伊予ちゃん。全然変わってないもんね。昔のままだよ。僕の憧れた伊予ちゃんのままだった」
「憧れたって、どういうこと?」ちょっとだけ期待しながら伊予は言う。
「伊予ちゃんは僕のヒーローだったからさ。僕が困ったときにいつも助けに来てくれるスーパーヒーロー」とにっこりと笑って卯月は言った。
あ、そういうこと。と伊予は思う。
確かに卯月は、友達、と言うよりもなんとなく、頼りない弟、と言った感じだったけど、あのころの卯月は私のことをそういう風に見ていたのか。ヒーロー。ヒーローね。
ヒーローは恋人としてはどうなんだろう? 合格? なんだろうか?
「仮面をつけてさ。かっこよかったよね」
「その話はやめて」
すぐに伊予は言う。
確かに伊予は小学校のころ、父親の影響で戦隊もののヒーローが大好きで、よく意味もなくヒーローの赤い仮面をつけていた。(それはもちろん、今では立派な伊予の恥ずかしい過去の一つだった。この秘密を知っているのは、本当に仲の良い一部の友達だけだった)
「仮面。もうつけたりしないの?」卯月は言う。
「しないよ。当たり前じゃん。私たち、もう高校生だよ」とちょっとだけ悲しそうな声で、伊予は言った。
「そうなんだ。もうつけたりしないんだね。ヒーローの仮面」同じく、少しだけさみしっそうな声で卯月は言った。
その卯月の言葉を聞いて、そういえばあの仮面はどこにしまったんだっけ? と伊予は思ったのだけど、結局仮面をどうしたのか、どこで無くしてしまったのか。それを伊予は思い出すことができなかった。
春の花嫁 雨世界 @amesekai
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