神格の猛者は悲劇を振るわむ

二十七発目 しばし流れる休息に心安らぎ…?



あぁ、もう朝か。

明るく暖かな陽射しがおぼろげに開いた瞳にささる。俺はあの後依頼をさっさと終わらせてそのまま宿で湯浴みをして、三人で布団に寝ていた。何故かベッドにちびっ子が2人潜り込んでる気が…はっ!しまった!両腕を取られている!これはもうまだ寝るしかないな。二度寝と洒落こもう。

翠「ん、もう朝?」

冬弥「んー、おはよ、まだ寝てるか?」

翠「ん、まだ寝てる」

翠もまだ寝るみたいだし俺ももうちょっと寝るかな、こっちに来て日の出と共に行動して日の入り後数時間以内には寝る健康的な生活を送っていたけど、やっぱり休日の朝は寝てたいよなぁ。おやすみ。


アルバ「ん、口が気持ち悪いのです…洗面所」

ふぁ、あれ、いつの間にかアルバがいないな。どこ行ったんだ?あぁ、扉空いてるしトイレでも言ったのかな。ちらっと部屋の入口の方に目をやると、扉にかけられた暖簾が揺れている。

冬弥「んー、俺も起きるか、そろそろ」

翠をおこさないように、そーっと腕を抜き、枕を頭の下に差し込む。これでよし、俺も顔洗いに行こ。

あー、念の為イヤーカフスさしてくか。

短くあくびをしながら宿屋の2階に設置された共用の洗面所へ歩いていくとアルバが口をゆすいでいた。

冬弥「お、アルバおはよ、よく寝れたか?」

アルバ「寝れたのです、トーヤが昨日さっさと寝てしまったからミドリと一緒に腕枕の刑に処したのです!」

満面の笑みで笑うアルバに気が緩む。かわいいからその辺の男に狙われないか心配だが魔法さえ使えれば俺らより強いかもだからなんとも信じ難い。

冬弥「今日どうすっかなぁ、休みにするか?」

アルバ「んー、私は2人に任せるのです」

んー、どうすっかなぁ、翠に聞いてみて何も出なかったら適当に1個以来やってあとは街中を食べ歩きでもすっかなぁ。

翠「おはよぉ、私もなんでもいいよー」

冬弥「ん、おはよ、聞こえてた?」

翠「いや、なんかそんな感じがしたから」

冬弥「そっか」

幼なじみだからなせる技なんだけどこういう事があると夫婦感というかなんかいいよな。

アルバ「なんかずるいのです」

冬弥「なんもずるくないぞ、アルバも好きだぞ」

翠「ふっふっふ、アルバにはまだ早いのよ」

アルバ「こうなったら読心のスキルを覚えてやるのです」

冬弥「そんなんあるんか」

マスター「お、お前ら起きてたか、朝飯食うか?」

そんな風に部屋に戻りながら適当に談笑していると、1階から上がってきた宿屋の親父さんと目が合う。

冬弥「あ、そうだな、でも今日は外で食べるからいいや」

マスター「おう、そうか、あ、そうだお前らが来てからちょうど1週間経つから部屋の掃除をしたいんだが、なんか触んないで欲しいものとかあったら魔道ロッカーに入れて置いてくれ」

冬弥「んー、別にないかな、特に持ち物も無いから大丈夫だよ」

翠「あ、私の小物とアルバの服だけどけておくよ」

マスター「そうしてくれるとありがたい」

んー、今日は掃除の日なのか、じゃあ、部屋でごろごろしてんのも邪魔だよなぁ、訓練も気が乗らないもんなー、やっぱ街中ぶらぶらすっかな。

翠「とりあえず外出て依頼見に行こ」

アルバ「ファスカさんならいい案出してくれるかもなのです!」

冬弥「あーそうだな、聞いてみるか」

なんの気なし、適当にギルドへの道に着くと、アルバが手を握ることを要求してきたから手を握ってギルドまで歩いていく。こういうとこもかわいいよな。養子というか妹の方が近い気がするよな。

冬弥「お、ついたな、やっほー空いてるー?」

翠「居酒屋か」

冬弥「お、伝わった?さっすがー」

翠「さすがに分かる、あ、ファミスー」

ファミス「あなた達、聞いたわよ、騎士団長達に勝ったんですって?」

冬弥「ん、頑張った」

ファミス「頑張ったで勝てるような面子じゃないんだけどなぁ」

冬弥「ま、ほぼ勝ったのはアルバのおかげなんだけどな」

アルバの頭に手をやると俺の手のひらをスリスリしてくる。なにこれかわいい。やべぇ俺今日アルバと翠にかわいいしか感じてない。そこまで語彙力無くなるほど疲れてないと思うんだけどなぁ。

翠「あ、そういえば、依頼済ませたあとなんか散策?とかしたいんだけどなにかいいとこある?」

ファミス「そうねぇ、あ、都北の一番街から三番街までが繋がって商店街になってるからそこに行ってみれば?」

そういえば、クラントと、あいつらの件で都東に行って、指輪屋が都西にあって、今回都南に行ったけどまだ都北には言ったこと無かったな。

ここ、セント・ブリューエルでは東部が住民街、西部が宿屋や貴族街、南部が訓練施設、北部が商業街となっているらしい。この前地図で見た。

冬弥「まぁ、適当な依頼こなすか」

ファミス「あ、それなんだけど、少し面倒な依頼こなしてくれないかしら?」

冬弥「面倒ってどんな?」

ファミス「内容自体はあなたたちからしたら全然なんだけどその依頼者がね」

冬弥「依頼者?誰だ?」

ファミス「それがね、その依頼、勅命なのよ」

草。さすがにギルドが中立だからって勅命、王からの依頼に対して面倒って言っていいんか。

翠「もしかしてそれこなしたら後になんかあるとかある感じ?」

ファミス「王室に呼び出されて褒賞を受ける」

冬弥「めんどい、却下」

ファミス「そうよねぇ」

ファミスはほおずえをついて、ため息をつく。やめて!良心をえぐらないで!俺のライフないなっちゃう!

翠「冬弥、受けないの?」

アルバ「私達のためなら気にしないでいいのですよ?」

冬弥「いや、それもあるんだけどさ、王に呼ばれたらなんか丸め込まれて後で旅をしづらくなりそうだなって」

最悪の場合、達成→呼ばれる→適当な爵位→封じ込め→側室とかで地位と動きの限定。とかされるとマジでうぜぇ。こっちの世界に親も友達も連れてきてないからどうにもできるんだけど。今回の人質となりうるものは俺らの進路とファミスクラント夫妻なんだよなぁ。2人には心配かけたくないし。逃げるが吉な気がする。

冬弥「ふむ、受けてもいいが俺らが達成したってこと言わないでくれないか?」

ファミス「ん?それは?匿名ってこと?それとも隠蔽ってこと?」

冬弥「んー、隠蔽の方かなぁ、依頼って討伐依頼?」

ファミス「そうね、王都内に湧いてしまったバジリスクの討伐よ、なんか近隣の街全てに依頼を出してるらしいのよね、そのせいで依頼こなせる人を探すのでてんやわんやよ、バジリスクなんて準A級そう簡単に倒せる人いないし」

冬弥「じゃあ、ギルドが調査に出たらいつの間にか倒されていたってことにしておいてくれないか?」

ファミス「いいわよ、副ギルドマスターの権限でどうにかするわ」

俺の関わったことのある女の人って逞しい人ばっかだよな。翠もしかり、凛もしかり、そういえばあいつも手強いというか逞しいというかだったな。まぁ、この話はおいおいするとして、今は別の話だ。

冬弥「ありがたい、なら裏でファミスの頼みってことで討伐だけはしておく、年のため依頼の受注はしないでおく」

翠「あ、じゃあ他の依頼もうける?今アルバと探しに行ってたんだけどこれとかどう?」

どこに行ってたかと思えばギルドボードのほうに行ってたのか。翠達が持ってきた依頼は「平原に巣食うフレアバードの討伐」

冬弥「んー、特にめんどくもなさそうだし、いいよそれで」

ファミス「はい、受注完了よ、じゃあ、お願いね」

翠「まっかせてー、あ、バジリスクの特性だけ教えてー、あと弱点とかあれば」

ファミス「そう、ね、まずバジリスクは頭が鶏で、蛇の体を持っている魔獣よ、性格はほとんどが獰猛で好戦的、一番の特徴として目から石化光線を出すことね、だからバジリスクと戦う際は真っ先に片目もしくは両目を潰すの」

冬弥「ほー、なるほど、目潰しを速攻ですればほぼ勝ちだな」

ファミス「まぁそうね、稀に魔術を使える個体もいたり、目が4つあるのとか、斧ですら目に傷をつけられないような適応種もいるけど、大抵はそうよ」

翠「なーるー、りょーかーい」

冬弥「んじゃ、行ってきまーす」

アルバ「行ってくるのです!また寝なのです!」

ファミス「ん、みんな気をつけて」

翠「はーい」

バジリスクってRPGとかでもあんま強くないイメージあるけど、王国兵士に倒せないやつなのか?なんかいやーな予感がするなぁ。バジリスクだよな。バジリスクで合ってるよな?やめろよ?ムシュフシュとかヨルムンガンドとかの受肉体とか言うのだけは。嫌な予感しか過ぎらねぇ。やめてくれよ異形の神話生物とかだけは出てくるの。ほんとに。


一方、王国領

兵士「はぁ、はぁ…くっそ、バジリスクの強さじゃ、ぐはっくっそ、足に石化光線が…」

兵士が足に目をやると、膝くらいまでが灰色に変色し、ひび割れていた。

兵士「や、やめてくれ、い、嫌だ、死にたくない!いやだぁぁぁぁ!」

兵士は泣き叫びながら、全身が石化し、全長数mにも及ぶ巨体によって押しつぶされ砕け散った。

巨体の主はそれについて気にもとめず、ズルズルと地を下半身を引きずりながら進んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強銃士と謳われる2人の少年少女は異世界に呼ばれたようです。 きゅー。 @quu0716_sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ