第四話『怪盗ノワールと脅迫』
「それじゃ、もう少し立ち入った話を────」
「────えーっとぉー? せんぱい、こんなところでなんのはなしをしてるんですかぁ?」
白板くんがさらに深く立ち入った話を続けようと手を組み直してずいと前のめりになった……ところでちょうど彼の後ろを通り過ぎようとした女子高生の一団の内の一人から声が掛かった。
独特な口調だ。耳にしただけで誰だか分かったのだろう、白板くんは母親に悪戯がバレた子供のように恐る恐る振り返った。
「おや、助手。今日は学友と遊ぶ約束をして要るのではなかったかな?」
声音だけ聞くと凄く余裕そうだ。
「うーん。さっきまであそんでたんだけど……あぁー、ごめんねみんなー、ちょっとようじできちゃってねぇ。またさそってねー?」
そう言って、椅子を引っ張ってきた彼女はさも当然のように向かい合う僕と白板くんの間(つまりテーブルの横)に座り込んだ。
白板くんは珍しく少し恨めしげに僕を見てきたけれど、もしかして僕の能力だよりで密談しようと思っていたんだろうか。
いやそれを責めるのは筋違いだよ。僕の能力は自由自在の万能能力じゃないからね。
確かにバレたくないなーって多少は気を使ってたけれど、すごい気を張ってる時じゃないと案外見付かったりするし……黒峰さんとか目立つ人と一緒の時は殆ど効果ない場面も多かったし。というか黒峰さんにはあんまり効いてた記憶もないね。
正直僕自身もこの能力の細かいところは分かってないし、実は普段能力使えてないとか言われても納得はしちゃうし? うん。するね。したくないけど事実そうに思えてるし?
「でー。せんぱいたち、どんなはなしをしてたんです? せんぱい、こういうところきらいなのかめったにこないじゃないですかぁ」
「助手。別に俺は嫌いなわけではない。単に騒がしい場所で食事をするのが趣味ではないというだけさ」
「それはつまりたべることがもくてきじゃなくてはなしあい、みつだんがもくてきってことですよねー? じゃあじゃあ、わたしにもいちまいかませてくださいよー、じょしゅですしー??」
「有益な話を聞けた。俺はこの辺りで失礼するよ」
「えっ、白板くん? 帰るの?」
「ああ、心配は要らないよ。すぐに起こる訳じゃない、また後日珈琲と一緒に話し合おう」
五千円をテーブルに置いた白板くんはそのまま背を向けて立ち去っていった。助手の子を見ても彼の後ろ姿をにやにやと見ているだけで止めなかった。
「うすいせんぱい、おかいけーいくらですか……ってせんえんいってないじゃないですかー、じょーほーりょーにしてはやすいなー。なにかよわみでもにぎられましたか?」
「え? いや……いいの? 君は白板くん追い掛けなくて」
「いーんですよー、だってあのひとはちゃんとひつようなときはよんでくれるので。こーやってさけるってことは、わたしがいなくてもだいじょーぶってことですから」
────彼女にはあまり関わってほしくないから。
白板くんはそう言っていた。それってつまり必要だけれど危険だから呼んでないってことじゃないかな?
その理屈だと僕なら危ない目にあっても良いみたいに聞こえるので今回は必要ないってことにしておきましょうか。ね!! そうだよね白板くん!!
「じゃあ助手ちゃんは白板くんの事よく知ってるんだ?」
「あー、きになっちゃいますー? こあくまけいみすてりあすがーるなわたしのことがー」
「小悪魔系ミステリアスガール」
「なんでもっかいいったんですかー??? いーんですかー? かいとーのわーるさんだってつばきせんぱいにばらしますよ???」
見た目はぼんやりしたままなのにキレ方が最悪だった。
「ごめんなさい」
「あやまれるせんぱいはいいせんぱいです。うすいかげせんぱい」
ふんすっ、と助手ちゃんは胸を張った。……いやまだキレてない?
「そんなうすいかげせんぱいにしつもんがあります。さきにいっておくとこたえなかったばあいせんぱいのしられたくないひみつをひとつずつくろみねふじのせんぱいにばらします」
「えっ」
「まずそうですね、せんぱいとはどんなはなしをしていたんですか?」
「えっ、さっき助手ちゃん自身聞かなくて良いって」
「おーっと、うすいかげせんぱいの
「黒歴史送信しようとするのやめてぇぇぇぇ!!? いつどこどうしてそんな画像持ってるの!!?」
「それはー、じょしゅ、ですので?」
スマホの画面に移ったノートの画像を見せられて恐怖とか飛び越えて感嘆してしまった。だってそれ間違いなく僕が中学の頃に書いていた日記のとあるページだもの。そこには当時好きだった女子との話が書いてあった。
送られるとどうなる? ────僕が死ぬ。
「そっかー助手だからかぁ……」
「ま、こまかいはなしはべつのところでしましょうか。もちろん、せんぱいのおごりでー」
そうして助手ちゃんは白板くんの置いていった五千円を拾い上げて席をたった。
◇
「…………ねぇ白板くんの助手ちゃん」
「なんです?」
「君、どこまで知ってるの?」
次に助手ちゃんの案内で来たお店は、いつもの黒峰さんの知り合いがやっているあのカフェだった。
その入り口で、助手ちゃんは何故か道中で身に付けたちょっとサイズの大きなハンチング帽を落ちないように手で抑えて屈み、もう一方の手で持った虫眼鏡で足元を見てにまーっと笑った。
「さあ、どこまででしょうねぇ……? あ、やっぱりおとしきれないですよね、ちのよごれって」
それはたぶん僕が運び込まれたときの血痕ですね。
「と、いうわけでしずかなばしょにきましたね、うすいせんぱい? くわしくはなし、きかせてくださいね?」
────怖すぎてさっきまでの話全部吐いた。
隣の席の人の知ってはいけない秘密を知ってしまった僕はもうダメかもしれない。 リョウゴ @Tiarith
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