ピエロは月を見上げて微笑む。

月の光に照らされたピエロは、暗い部屋の中で笑っていた。

ここまではうまくいっている、と。


自分は、どうしてこうなってしまったのか。

ふと、思うことがある。

しかし、もう戻ることはできない。

あの時、君と出会っていなければ。

こんな気持ちになっていなければ。


そんなこと、今思っていても、もう戻ることはできない。




いや、しない。

手に入れるまでは。




ピエロは目の前の机の上の数枚の写真に目を落とす。

数枚のうちの3枚は、赤ペンでバツがつけられている。

五十嵐、滝田、酒井の3人の写真だ。


ピエロはまだ何も書かれていない写真のうちの1枚を取った。

そしてその写真に微笑んだ。


「なぁ、もう少しやで」


愛しそうに写真の人物を見つめ、写真を持ちかえる。

憎悪の表情を浮かべた。


「次は、お前やったな」


持っていた写真を握りつぶした。

そして先ほどまで持っていた写真の人物に微笑み


「もうすぐ、一緒になれるからな」


そう言うと、机の下の荷物の山から一つ選びだし、ポケットにしまう。

足元に目を落とす。

そして目の前のモノを蹴り上げる。

モノはうめき声をあげる。

そのままピエロは外の世界へと向かう。


「なあ、どうしてお前が」


後ろのモノが問う。

ピエロは笑って答える。


「アイツが、大好きだからや」


その笑った顔は、泣いているように見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの時、誰も気付くことができなかった。 香月。 @kz_um_523

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る