自分の正義を貫いただけだ。

「五十嵐が帰ってきてない?」

「そうなんです」


俺は教師をしている酒井元。

宇佐見や五十嵐の担任だ。


「先生、誠也が帰ってこない理由知っていますか」

「俺が知っていたらお前に五十嵐の無断欠席の理由を聞かない」

「そうですよね」


何かあったように宇佐見はうつむく。

思い当たることがあるのだろうか。


俺のほうは全く思い当たることがない。

五十嵐はしっかりとしていた。

成績は中の上あたりをキープしつつ、部活にも参加。

授業態度や生活態度は文句なし。

クラスメイトからの信頼がとても厚かった。


「とりあえず、宇佐見は気づいたことがあったら言ってくれ」

「先生は」

「俺は、とりあえずいろんな生徒に聞いてみる」

「よろしくおねがいします」


そう言う彼女は、震えていた。

涙をこらえていたのだろう。

俺は彼女の肩に手を置くことしかできなかった。



―――


「――ということだが、五十嵐について知っている者がいたら俺に言ってほしい」


帰りのHRでクラス全員に伝える。

他のクラスにも、担任を通じて伝えてもらうようにお願いした。


そして、俺は五十嵐の家を訪れた。

五十嵐の母は憔悴しきっていた。

妹たちも小学校に行くことができずに引きこもって泣いているという。



「本当に、何もなかったのですか」

「それはどういうことでしょうか」

「いじめられていた、とか」

「五十嵐君が?」

「それくらいしか、思いつかないんです、本当に何もなくて」


そのまま、口をつぐんでしまった。


「彼がいじめられるとは想像できませんが、何かがあったことは確かだと思います。なので、私は原因を調べるつもりです。もし、何か思い出したことがあったらご連絡ください」



失礼します、と五十嵐家を出たその時だった。



「先生!!」


声の主は宇佐見だった。





「先生!!幼馴染の男の子も、昨日どこか行ってしまったみたいで!!」


事件だ、俺の脳のどこかで誰かが言った。

二人で家出かもしれないだろう、俺は返答する。


しかし、事件としか思えないのは、その彼の家に向かった時に明らかになった。




「これは、なんだ」


宇佐見に案内されて到着したのは、行方不明となっているという彼の家。

彼の名前は滝田昇、中学三年生だという。

彼の母も憔悴しきっていた。

昇はそんな子じゃない、そう呟いている。


「昇も誠也も、家出するような子じゃありません」

「五十嵐については同感だ」


何かあるか、そう思い俺は玄関先を覗く。

そこで俺は何か異変を感じ取った。



「滝田さん、この傷は」

「傷、ですか」


玄関の壁に、ひっかき傷のような跡が三本ついていた。

そして、その下のあたりには、


「血痕?」


そんなわけない、そう思いたかった。

しかし、こんなところにケチャップは飛ばないだろう。



「そんな……」


滝田さんは倒れこんでしまう。



「これは、何かあったとしか、思えませんよ、先生」

「あぁ」


その後、宇佐見たちの幼馴染たちに会いに行ったが、二人は無事だった。

何も知らないという彼らは、この件には関係がないように見えた。


「二人が無事でよかったです。もしかしたら、みんないなくなってしまったのかもって思いました」


笑っていたものの、心からではないように見えた。

それもそうだ。

幼馴染が二人も、一日でいなくなっているのだ。

二人は無事だとしても、安心はできないのだ。



「今日はありがとうございました」

「あぁ。宇佐見、お前も気を付けるんだぞ」

「はい、じゃあ、さようなら」

「あぁ」



これ以上は立ち入るな、誰かが言う。

俺は自分の正義を貫く、俺は返答する。











「お前も、邪魔なんだよ」


後ろから聞こえた声は、憎悪に満ちていた。

そのまま体がしびれ、俺は意識を手放した。

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