僕は何も知らなかった。

「え、セイちゃんいなくなったってどういうこと」

「わからない」

「ケンカ、したの?」

「いや、今日も一緒に帰ろうって、掃除当番待っててもらってて」

「じゃあ、どうして……」

「わからない、なんで」


僕は滝田昇。

中学三年、高校受験を先日終えたばかり。

無事に真琴ちゃんたちと同じ高校に入学が決まっている。

真琴ちゃんとセイちゃんこと誠也君とは幼馴染だ。

家は斜向かい。よく近所のお兄ちゃんたちと五人で遊んだものだ。

そういや、お兄ちゃんたちも同じ学校だったような。

今二年生だから、みんなで一緒に登下校できる。

あぁ、小学生のころみたいだ。



そんな矢先だった。



さて、この状況。

真琴ちゃんに呼ばれた。

何があったのかってくらい緊迫していた声だったから、何かなって。

どうしたのかなって思ったよ。


でも。



「セイちゃんとはいつも一緒に帰ってたよね」

「うん」

「今日は」

「先に帰ったってチャットが来たの」


そう言いうつむく。


「おかしくない?」

「え?」

「真琴ちゃん大好きなセイちゃんが先に帰るなんて」

「そう思ったけど、何かあったのかなって」


しかし、家族に何かがあったわけでもなく。

今も家に帰ってきていないと言う。


「ノンちゃん、どうしたらいいかな」

「明日、明日帰ってこなかったら。ママさんに相談しよ」

「そう、だよね」


真琴ちゃんが帰ったあと、僕は何もできない自分に腹が立った。

目の前の壁を殴る。

もっと、頼れる男にならないと。

憧れのセイちゃんみたいになるんだもんね。

僕はそう呟いて、ソファに腰かけた。





インターホンの音が鳴った。

返事をして玄関の扉を開けてから、僕は記憶がない。






最後の記憶はそう、悲しい顔のピエロ、だ。

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