あの時、誰も気付くことができなかった。

香月。

俺はただ、仲が良かっただけだ。

俺は五十嵐誠也。

高校教師だ。

これから話す話は、この虹ヶ谷高校で起きた話。

俺や幼馴染、教師を巻き込んだ、この高校で今も語り継がれている事件の話だ。

なんでこうなってしまったのか、と思うことがある。



そう、あの時誰も気づくことができなかったんだ。

誰かが気付けていれば、こんな結末を迎えることはなかったのかもしれない。






―――――


「おはよう」

「あぁ、おはよう」


あれは、いつも通りの朝。

隣の席で、幼馴染の宇佐見真琴とあいさつを交わして席に着く。

高校二年生という、何ともたるんでしまう時期。

それも、春休みを直前に控えていて、どこかクラスは浮かれ気分だった。


「休みに入ったら、何しよっか」

「何って、また俺の母ちゃんのおやつ食べに来るだけじゃん」

「あれ、バレた?」


そうやって他愛もないことで笑いあう。

それがずっと、最低でも高校生のうちはずっと、続くと思っていた。




「おはよおはよおはよおはぐほっ」

「シュンちゃんおはよ」

「鳩尾はキツいで」


彼は上田俊輔。

大阪から中学のころに引っ越してきて、それからの仲。

とりあえず、ノリが軽いとだけコメントする。


「すまんな、また朝からうるさくて」

「なんでお前が謝るねん!!」


謝ったのは、高校で出会った田中智樹。

一年の時に俊輔と同じクラスで仲良くなったそうだ。

俺らは俊輔から紹介された。


「ほんと、俊輔と智樹は仲良しだね」

「ほんなら真琴と誠也なんてラブラブやろ?ひゅーひゅー」

「そ、そんなんじゃないから!!」

「そうそう、真琴と俺はただの仲良しな幼馴染だって」

「なんかつまらんのぅ、なあ智樹」

「そうだね、そんなわけないもんね?」

「智樹までそういうのー?」


俺らは笑いに包まれる。

予鈴が鳴る。


「じゃあ、俺教室に戻らなきゃだから」

「あ、俺もや」


俊輔と智樹は隣のクラス。

朝は、いつも俺らと喋りにこの教室に来てギリギリに帰っている。


「じゃあまたお昼かな」

「そやな!じゃあとで!」

「ばいばーい」

「おう」


俺らはいつものように言葉を交わし、席に着く。



そう。そのまま、いつものように今日が終わると思っていたんだ。




―――


「それじゃ、帰るか」

「あ、待って。私、掃除当番」

「そっか、じゃあ昇降口で待ってるわ」

「うん」



家が隣な俺らは、いつも一緒に帰っていた。

今日も、いつものように二人で帰ろうと思っていた。





そこで俺の記憶は一時的に飛ぶ。


――――


「ん…」


俺は、昇降口で寝てしまったのだろうか。

いや、まだ昇降口に着いた記憶がない。

なら廊下か。



いや、違う。

ここは、どこかの工場跡?

そして、この手足はどういうことだ。

手錠に、足枷?


「お目覚めかい?」


目の前には、ピエロが立っていた。


「ピエロ?」

「そ、ピエロ。似合っているだろう?五十嵐誠也君」

「俺を、知っているのか」

「それはそうだろ?だって、」


そう言って、ピエロはその仮面を外す。


「なんで、お前が」






ピエロの彼は、悲しそうな顔で笑っていた。

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